第11話 元祖・キューブ飯
ササキ、レナ、ファーブルの一行はさらに奥に進み、何らかの公園らしき場所に出た。草木が生い茂ってはいるが、人の手の入っていない原生林などと違い、どうも一定以上は育たないようになっているらしい。頭上を覆う木の葉っぱから陽光を模した光が降り注ぎ、心地の良い環境だった。
ファーブルがきょろきょろと周囲を見回す。
「うーむ……ぱっと見は動物を育成する環境でもなく、たまたま木が生えたとかでもなく、公園か何かのようぢゃな」彼女は興味深そうに観察していた。
「動物を育成?」レナは偽陽光の光源を目を細めて見つめていた。かなり高い天井……30m以上はあるだろうか、その天井は全体が青く塗装され、それ自体もほんのり光っているようだった。その一角にゆらゆらと恒星のような光が浮かんでいる。
「魚の育成環境は見たぢゃろ? ああいう感じで、こういう古式のコロニーには結構、牧畜とか実験的に行われていたり、巨大生物が飼われていたりするんぢゃよ」
「へぇー……最近は?」
「最近はそもそも惑星改造の技術が進んだのもあって、あんまりこういうコロニーを浮かべたりはしないのぢゃよ。あっても実験棟とか、そもそもアミノ酸にしろタンパク質にしろ合成して給食できるようになったから動物を飼ったりはしなく……」
「何かありますよ」
ファーブルをササキが遮る。
ササキは終末統合端末を取り出して画面を見つめる。
「えぇー何だろう、恐竜的な何か?」レナが少し嬉しそうに言う。
「いえ……すいません、木陰に荷物か何かがあるようです」
「また
「ちょっと違うようですね、見てきます」
ササキは慎重にその木に近づいた。
その木は周囲を見渡せるような小高い丘の上にある。
もしも誰かが見ているとしたら格好のポイントだ。周囲からも見える。
こう言う時は罠であることもある。
週末統合端末で走査したが、幸い地雷とか危険なものはないようだった。
近づくと、木陰には誰かがもたれかかっているように見えた。
「これは……」
それは古い時代の白骨だった。その人物は風化しかけた航海士か何かの制服をきこんでいる。ここで力尽きたようだった。
「大丈夫そうです」ササキが二人に合図する。
レナはさっそうと、ファーブルはたどたどしい足取りで登ってくる。
「これは……」
「まさか?」
「いや、かなり古い年代の遺体のようです……あとで埋葬しましょう」ササキの端末も、このコロニーがまだ現役だった時代の遺体であることを示していた。
その日はここで野営することになった。
ササキが遺体を丘の一角に埋めた。
「荷物だけど……」レナが平べったい箱を3つ取り出した。
「コロニーの航海士の日誌以外にこれがあったわ」
「これは?」
「まぁいわゆるレーションね。幸いまだ食べられるみたい。ありがたくいただきましょう」
「……食料も心許ないしな」とファーブル。
「航海士の人に感謝しながら食べますか」
レーションのボックスのフタをとりだし、さらにフィルムを剥がすと、中は予想と違った。
左側は主食だろうか。白い何かのペーストで満たされている。
右側はおかずだろうか。通常、メインなどが置いてある箇所は、茶色いペーストで満たされ、その丈夫には青と黄色のキューブが置いてある。
レナが顔をしかめる。
「いただいておいて何だけど、これ本当に美味しくなさそうね」
「ま、まぁ感謝して食うとしそうぞ」ファーブルがスプーンを白いペーストに突っ込んで口に運ぶ。
「むっ!」
「だ、大丈夫ですか? 博士」
「……案外、口にいれるとほろりと崩れて米っぽくなる」
「美味しいですか?」
「とてつもなく普通じゃ」
おそるおそるササキも茶色いペーストにスプーンを突っ込む。
それを食べると、何やら肉っぽい風味がした。
「……案外、普通ですね」
「食感以外はね、あ、この赤いキューブはおいしい。何かのゼリーみたい」レナが言う。
3人はとにかく腹を満たした。
なお航海士が遺した日誌には、『食料もほとんどつきた。最後にこのキューブ弁当が残ったがもう食べ飽きた。私はこの長めのいい丘で力尽きるだろう。もしも私を発見した者がいたら、妻に私の最期を伝えてほしい。もし発見した者が空腹だったら、特別においしくはないがこの食料を進呈しよう。ありがとう』と、最後のページに記されていた。
「古代のキューブ弁当」
――材料 (3人分)
ランチボックス × 3
――作り方
1.ボックスを開ける
2.フィルムをはがす
3.食べる
――コツ・ポイント
見た目を気にしなければ案外普通です。
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