第10話 瞬間おにぎり(漬物付き)
機動警察のササキとレナ、学者のファーブルの一行はさらに墜落したスペースコロニーの深部へと進んでいた。先行している退役軍人は、進める場所、危険な場所をうまくデータとしてルートを残してくれており、それを追跡するだけで安全に調査を進めることができた。
しかし退役軍人は一人で進むのが早いのか、体力があるのか、一向に追いつく気配がない。そろそろ彼の存在を忘れかけていた時だ。
「こんなところに
目ざとくメモ付きで置いてあったリュックサックをファーブルが見つけた。
少々重力場が異常になった区画で、通常の通路でも登ったり下ったりが多く、ササキとレナはアンドロイドのわりに体力のないファーブルを何とかサポートしながら進んでいたため、疲れ切っていた。
そのリュックサックは頑丈な人工繊維製で比較的新しいもののように見えた。
おそらく退役軍人の持ち物だろう。
データ上、メッセージが残されていた。
「そろそろ疲れたころだろう。ここから先は、捜索したが食えるものがあまりなかった。2日分ほどの食料と水を置いていく。使ってくれ……か」
ササキがデータを読んだ。
「なかなかいいやつじゃない」レナが言う。
「ふーむ、結構な量ぢゃな。本人が持っていたものもありそうぢゃが、ここらへんで見つけた食料も入っとるようぢゃ」
ファーブルがリュックサックを開けて覗き込むようにして中身を漁っている。
「そういえばお腹すいたのぅ……」
ファーブルは本当に燃費が悪い。
人間と同じものを食べて燃料に出来る点は素晴らしいのだが、ファーブルの容貌である10代前半くらいの人間と比較してもかなり食べるほうだ。
「何かすぐ作れるもの、ないかしらね?」
「そうぢゃな……おっ」
ファーブルが勇んで何かを取り出した。
それは箱型をした繊維質のケースで、何か文字が書いてある。
「ちょっと古くて読めないけど……」レナが眉をしかめる。古代文字、しかも東方系の文字らしく簡易な翻訳機ではサポートしていない種類のものだ。
「以前、別の遺跡発掘でほぼ同じものを食べたことがある。これは"瞬間おにぎり"ぢゃ」
「瞬間おにぎり?」ササキとレナの声がシンクロした。
「そもそもおにぎりを知らんか?」
「いや、聞いたことはありますし、食べたこともありますよ」とササキ。「米を適度な圧力で固めた燃焼効率の良い穀物による手軽なファーストフードですよね?」
「だいたいあっとる。しかもこれは漬物のぬか漬け1……つまりピクルス付きぢゃ!」
「おぉ……」レナが目を輝かせた。「カロリーとビタミンをとったりする分には問題ないわね」
「しかもこれは穀物の胚を利用してつけたもので、炎症に効果のあるフィチン酸やビタミンB群も豊富ぢゃ」
「いいわねぇ」レナが目をキラキラさせる。
「それはそれとしてなんで瞬間なんです?」
ササキが尋ねるとファーブルは我が意を得たり!と言わんばかりに胸をそらした。
「そうぢゃ、そこが肝要なんぢゃ」
彼女はその箱型のボックスを開いた。
ボックスの中では、どうみても乾燥しきった三角形の物体と、野菜の干物のようなものが透明なフィルムに包まれている。
「そしてこうぢゃ」
彼女はそのフィルムをはがす。
瞬間、ぼふんというような音がして、目の前にはつやつやとした白いおにぎりと、まるで昨日漬けたばかりのような漬物が並んでいた。
「おぉっ!?」
「うっすらとこのおにぎりと漬物には特殊な被膜が貼ってあってな。フィルムをはがした瞬間に大気中の水分を使って一気に元の質量や見た目を取り戻す仕組みになっとる。ついでにゴミやウィルスも除去するから清潔ぢゃ」
「これがおにぎりと漬物……美味そうね」とレナ。
「もう2~3個あるようぢゃから、いま食べるとしようか」
ファーブルがボックスを配り、ササキとレナはぼふんと音を立てておにぎりと漬物を戻した。
3人は車座になっておにぎりとぬか漬けをほおばった。
おにぎりには海苔なる海藻を乾燥させたものが付着していたが、その独特な風味が米で作られたこのファーストフードを著しく美味にさせていた。
「このピクルス……米に合う」
レナがピクルスとおにぎりを交互にほうばる。
ササキは以前食べたことはあったが、いまここで食べるおにぎりは気のせいか、格別に美味に感じたのだった。
「瞬間おにぎり」
――材料 (1人分)
瞬間おにぎりボックス(ぬか漬け入り)× 1
――作り方
1.ボックスを開ける
2.フィルムをはがす
3.食べる
――コツ・ポイント
おにぎりとぬか漬けは交互に食べると美味
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