第8話 パイプを流れる完全栄養食

 一晩が明けた。

 ササキとレナ、ファーブルは気密服を装着すると簡易気密テントを片付け、もう1人のメンバーである退役軍人が向かったというコロニーの入り口を目指した。

 

 メンテナンス用の通路への入り口が地上付近に出ているとのことで、一応ホバーバイクで接近したが、通路はかなり狭かった。


「ビーコンが設置されておるな。奴が設置したものじゃろう。このままこのビーコンに従っていけば大丈夫そうぢゃ」とファーブル。レナに抱き着くようにしてホバーバイクの二人乗りをしている。

 

 やや不安定なのかかなり必死にレナを抱きしめていて"彼女"はプルプルと震えていた。


 ホバーバイクを空中に停止させ、メンテナンス通路へと入り込む。

 人口重力はこの区画では死んでいるか、そもそも機能していないようでかなり苦労して3人とも登った。


 通路も微妙に傾いていて、場所によっては40度近い傾斜になってしまっていた。レナとササキが交互に登ってロープを垂らすという方式で少しづつ前進する。

 

 通路のあらゆるところに配管や配線が走り、鋼鉄かアルミらしき金属の床を這うようにして登って行った。


 数時間も登って最初に音を上げたのはレナだった。


「もう無理ぃぃ!」

「そうぢゃそうぢゃ! これ以上登れないぞよ!」

 

 丁度、人口重力が効いている区画か、あるいは傾斜がたまたま衛星の重力の方向と一致したのか、ちょうどよい角度になったあたりで座り込むレナにファーブルが同調する。

「ホーク大尉……確か山岳レンジャーの資格持ってましたよね?」おそるおそる問うとたが、レナは暴れる。


「おなかすいた! ササキ君何か作ってよ」

「そうぢゃそうぢゃ!」

「うーん……」

 

 ササキはバックパックを探った。

 もちろん長期の探索になる可能性に備えてそれなりの携帯口糧レーションを持ってきている。レナもかなりの量持ってきたいるはずだ。


「そういうのじゃなくてぇ」

「そうそう、そういうのじゃなくてぇ」とレナとファーブル。


「ホーク大尉そういうキャラじゃなかったですよね?」

「もういいじゃない。何か探してきてよ」


 ササキは真顔でレナを見つめたが、レナは退かない気配だった。

 やむを得ずササキはそのあたりの探索に出かけた。


 照明が生き残っているらしくこのあたりの通路は明るかった。

 いくつかの通路を通り、何かの発動機のメンテナンス室を抜けたあたりでほんのりと甘い匂いがするのをセンサーが感じた。


 どうやら空気などの大気構成も問題なさそうだった。

 念のため気密服は脱がないことにしてセンサーに従う。


 ぽっかりと広い部屋に出る。

 天井も高く、青空のような色彩の照明が降り注いでいて、一瞬、地上にいるかのような気分になった。


 1ヘクタールほどもありそうな部屋で、中央には畑の後なのだろうか。

 栽培用の土らしきものが散乱していて、いくつかのパイプが走っているのだが、それも破断していた。


 ただこれだけの構造物が落下し破壊をまき散らしたにしては衝撃が少なく、内部の構造はある程度はアクティブ重力制御などで守ったのだろう。いまはパッシブ重力制御が主流で、ここまでの事故が起こったらどうなるか分からない。

 古い時代の高級なシステムが現代の簡易なシステムを凌駕するというのはよくあることではあった。


 その破断したパイプから甘い匂いが出ているらしかった。


 そこからはどろりとした白っぽい液体が流れだしており、それは排水溝に吸い込まれて行っていた。


 ササキはサンプルを収集し、気密服の腕の部分についた試験カプセルに2~3滴たらしてみた。


「――ふむふむ植物性のタンパク質、ビタミン、アミノ酸で構成され、穀物らしき繊維質もある……と。何に使ったかはわからないけども、植物性なら変なものじゃなさそうだな」

 

 ササキはそう判断すると、水筒がわりの容器にその液体を入れてレナ達のところに戻った。


「何これササキ君、まさか・・・と思うけど……」レナが嫌そうな顔をする。

「大丈夫です、調べましたが植物性タンパク質が主体です」

「それなら大丈夫ぢゃろ、変なものではなさそうぢゃ」


 ファーブルがその液体を試験しながら言う。

 ササキ達のものより高級な試験体だ。


「何かの非常食か何かのルートかのう?」

 そう言って彼女は大気組成を確かめると気密服のヘルメットを外し、液体を容器から直飲みした。

「美味い!」

「えぇー……ほんとうに?」

 

 レナも容器に口をつける。

 飲んでいる内に表情がかわる。


「何これ、甘くて美味しい! クセも全然ないわね」

「俺も頂きます」

 ササキも飲んでみた。

 どろりとしたのど越しだが、甘くさわやかな香りが鼻孔を抜ける。

 べたつくような甘さではなくかなり上品な甘さだった。


「ほんとうだ、美味しいですね。しかも腹にたまる感じもしますし」

「ぢゃな、後でそのパイプとやらのところにいってもう少し調べてみよう……」


 その後、3人はそのパイプから出る液体を貯め、自分たちでもビーコンを設置して座標を記録した。新しい食料が手に入ったのもあり調査期間もいざというときは伸ばせそうだった。そのことが先ず大きな成果だったのだ。


 なお後日分かったこととしては、衛生的な環境かつ家畜の味覚にも配慮した新世代の実験用飼料とのことだった。


「謎の液体」(畜権に配慮した家畜用完全栄養食のパイプ流路)

――材料 (1人分)

破断された何かの液体を通すパイプ……1個


――作り方

1.破断したパイプを見つける

2.液体を容器に入れる

3.飲む


――コツ・ポイント

賞味期限に注意。

家畜用ですが人間もお召し上がりになっても問題はありません。

ただしもっと良い食料があるのにあえて召し上がる理由については関知いたしません。



 


 

 

 

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