第6話 宇宙コロニー探索序章と即席バナナ
ササキは久々に地上警察捜査隊機動捜査課に呼び出された。
基本的にはこの広漠とした惑星においては職員が集まったり出勤したりする習慣はない。それぞれが遠隔で指示を受けたり独立して調査活動をしている。
機動捜査課は比較的環境がきれいな地区にあるが、それでも鉛で出来た扉を開けて地下に降りていく必要はあった。集団農場と違い小さな個人用の
ササキは定期的に抗放射性物質の接種を受けている身ではあるが、基本的には人間が済む場所は地下のほうが安全だった。
地下へ向かう階段を少し降りるとすぐに機動捜査課に到着する。
10m四方ほどの部屋で、片隅には装備品が山積みされ、デスクが3個だけ置いてある状態だった。
「よっササキ中尉」
背の高い赤毛の女性が声をかけてきた。
レナ・ホーク大尉だ。何度か仕事を一緒にしたことがある。
「キミも呼び出されたの?」
「ということは何かの共同調査ですかね」
「かもね……」
「ササキ中尉、ホーク大尉、よく来てくれたね」
長身でスキンヘッドの男が部屋の片隅に現れた。投影された映像だ。
機動警察制服に身を包んでいるが筋骨隆々ではちきれそうだ。
「大佐、久しぶりですね」
レナが声をかける。
「普段はメッセージだけだからね。さて今回だがちょっと厄介な任務を頼みたい」
大佐は任務の背景を2人に説明した。
いわく、衛星において大規模な土砂崩れが観測された。
その土砂崩れの中から恒星開拓時代初期のものと思われる宇宙コロニーの残骸が観測されたという。
問題は機動警察の記録にもどこにも衛星上に落下したと思われる宇宙コロニーの記録はないことだ。宇宙コロニーは推定で全長8000mほど、直径は800mほど。
現在なら珍しくもないが恒星開拓時代初期の建造物としては非常に巨大なものだ。
「ただ記録にないというのは非常に引っかかる……ということで一応調査をするという話になった」
大佐はにっこりと笑った。
スキンヘッドの長身の男の貼り付けたような笑顔は非常に不気味だった。
そして大佐が笑顔で語りかけてくる時はろくなことがない。
「つまり我々も地表を離れ衛星に向かいコロニーを調査するということですか」とレナ。
「その通りだ。宇宙港には連絡してある。2人だと心許ないだろうからこうした建造物に詳しい歴史家と補助を担当するベテランを追加でアサインしておいた。2人は先行しているから宇宙港で合流してくれ」
「了解です」
「復唱はいい、ではよろしく頼む。さっそく準備を整えたら出発してくれ。期間はおよそ1週間だ。調査結果はいつも通り端末で報告してくれ」
ササキとレナは敬礼した。大佐の映像が消える。
「宇宙コロニーの探索ですか……」とササキ。
「記録にない宇宙コロニーといっても大戦時に記録が消失しているなんてよくあることだわね。ただ出てきてしまったものは調査するというわけね」
「まぁ軍の管轄でもないし環境省の管轄でもないとなると、わけのわからないものはだいたい
「衛星に向かうなんて出張は珍しいから楽しみね」
「そうですね……」
気の無い返事をしているようだったが、他に見知らぬ2名がアサインされていることや、記録にない宇宙コロニーなど不安要素はあるものの、とにもかくも珍しい任務であって、ササキはまだ見知らぬ宇宙コロニーに存在しているであろう「グルメ」に想いを馳せていた。
2人はそれぞれの自宅で準備し、荷物を持って宇宙港で合流した。食事をゆっくりととる時間がなかったのでササキは自宅で配給されていた即席バナナを10秒で胃の中に放り込んだ。
「宇宙港」は現在、広々とした赤茶けた大地に高張力耐熱タイルが無造作に敷かれただけのものだ。発着場のそばにはかつての軍艦の艦橋構造物を再利用した管制塔とちょっとした待機室があるが、全体的には環境省が管理しており一般人は入れないようになっていた。
現在も2隻の星系内宇宙船が露天に駐機しており、外郭には巻き上げられた赤砂が付着していた。
ササキとレナはホバーバイクを管制塔の環境省職員に預け、待機室に向かった。
ふとササキは管制塔の覗視孔から外を見た。
ちょうど1隻の大型の恒星間宇宙船が青い光で微妙に時空を歪めながら降りてくるところだった。おそらくは定時連絡船なのだろう。
その船はゆっくりと高張力耐熱タイル上に降下しちょっとした地震を起こした。
ササキはその様子を何となく見届けた後、待機室に向かうレナの後を追ったのだった。
「即席バナナ」
――材料 (1人分)
即席バナナの素……1個
――作り方
1.バナナ型のトレーの中に即席バナナの素を入れる
2.水を入れて5秒待つ
3.バナナ型のトレーから即席バナナ(皮のフレーバー付き)を取り出す
――コツ・ポイント
時間がない忙しいあなたへ。カロリーやカリウムを短時間で摂りたい時に食べましょう。
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