第4話 恒星間宇宙船のレーション

「さーて行くわよ、ササキ中尉」

 元気よく声を出したのはレナ・ホーク地上警察捜査隊機動捜査課の大尉だ。

 赤毛をさっと後頭部でまとめている。

 

 よく日焼けした元気な女性警察官で28歳独身だ。


「はい大尉」

 残念ながら1階級上の彼女は上役ということにはなる。

 

「よろしい、では何があるかわかんないから銃持って行くわよ」

「はい大尉」

「……なんか釈然としないわね」

「はい大尉」

「……」


 とにもかくも彼女は進むことにしたようだった。

 目の前には金属の巨大な残骸が佇立している。

 かろうじて箱状のものが認識できるが、高さだけで50m以上ある。


 そこらじゅうに数十メートル級の金属の残骸がこの赤茶けた大地に広がっていて、遠くから見ると金属製の墓標のように見えた。

 

 東の方の山岳の稜線にぽっかりと穴が開き、そこからうすぼんやりした恒星が光を投げかけてきていた。


「これがJA3902号ね……恒星間宇宙船なだけあってでかいわね」

「ですね」


 ササキもそれを眺める。

 JA3902号は80年ほど前に建造された恒星間宇宙船だった。

 当時は他の惑星への植民が限界に達し、新たなフロンティアとして別の星系が候補にあがっていた最初期だ。


JA3902号は軌道上で建造されていたが発動機関が暴走し墜落。

 大気圏でばらばらになりながら山岳の一部を吹っ飛ばしここに残骸をバラまきながら落ちたというわけだった。

 その残骸は広く数十kmにわたってばらまかれていた。


 その後、「極地戦争」と言われる戦争が起き、そのまま残骸は放置され、やがて砂をかぶり忘れられていった。

 しかし先日発生したハリケーンで再び露出。その調査を命じられたというわけだった。


「まぁぐっちゃぐちゃよね。とりあえず適当に大丈夫そうな区画に入ってみましょ」

 ササキとレナはホバーバイクを降りて入り込めそうな入口を探した。

 わりとあっさりと整備用の出入り口が見つかる。幸い歪んでもおらず簡単に開けることができた。


 中は人が2人ほど並んだらいっぱいになるほど狭い通路になっていた。

 整備用の回廊だろう。


「電源関係は全部死んでるみたいね」

 レナが終末統合端末でそのあたりを走査する。


「とりあえず暗視装置で調べてみましょう」

 何となくササキが先頭になりレナが後ろからついてくる形になる。

 

「ずいぶん慣れた感じなのね……」とレナ。

「まぁ探索任務多いですからね」


 レナはどちらかというと内勤も多くあまり現地調査には出張ってこない。


「何か小部屋がありましたよ」

「入ってみよっか」


 その小部屋は10m四方ほどで、床に固定された机がそのまま残っていた。

 衝撃のためか椅子の残骸らしきものが転がっている。

 

「何もないわね」

「……いえ、これを見てください」

 

 ササキがすっと近づく。

 そこには壁面に埋め込まれた小さな扉があった。猫が入り込むのにちょうどよいくらいの大きさだ。


「何それ?」

「恒星開拓時代の宇宙船にはよくあるんですよ……ここまで大きい宇宙船は初めて入りましたが」


 ササキがその小さな扉の四周を指でなぞると、あっさり扉が開いた。

「電源死んでるかと」

「大抵この設備だけ独立してたりするんですよ」


 その扉の中には弁当箱ほどの大きさの箱がいくつか入っていた。

「これですよ大尉」


 ササキが取り出した箱には「携行宇宙食レーション」と書かれていた。

「えー……」

「ちょうどお昼時ですしこれを食べましょう」

「冗談でしょ?」

「何を言ってるんですか、恒星開拓時代の宇宙船に積まれている携行宇宙食は美味いものが多いんですよ」


 ササキは慣れた手つきで「携行宇宙食レーション」箱の側面をなぞる。

 数秒で蒸気が漏れだしあっという間に加熱された。


「さぁどうぞ」

「えー……」

 ササキがもう一つ探している間にレナは蓋を開けた。

 蒸気がぶわっと顔に噴き上げてくる。


 箱には左側につやつやとした白米、白米の真ん中に赤く小さな果実のようなもの、右側に肉料理のようなものと野菜。

「すご……この野菜本物?」

「有機合成でなく天然栽培モノですよ、その時代なら」

「本物のコメ初めて見たかも」

「もう一つありました……食べましょう」


 二人は床に座って食べ始めた。

 コメは若干べたついていたがもちもちとした食感だった。

 赤い果実は梅干しだった。

「これ、うまっ……あんまり探索任務出てなかったけどこういう役得もあるのね」

「でしょう……」


 食べ終わった後さらに探索するともう5~6箱発見できた。

 後の追跡調査ではここは整備士用の休憩室とのことだった。

 「携行宇宙食レーション」は保存庫に収められると、扉を開けることで気化して消える特殊なポリマーで満たされ殆ど経年劣化することなく保存されていた。


 その際は発見できなかったが飲料が保管された区画もあった。

 その中にはレナが博物館で見て以降、憧れだったキャラメル風味クリームコーヒーもあったという――



――材料 (1人分)

白米……150g

カット野菜……80g

鶏肉……100g

梅干し……1個

特殊ポリマー……保存用に


――作り方

1.側面の突起物を3回なぜる

2.温まるのを待つ(3秒程度)

3.蓋を開ける


――コツ・ポイント

取り出す際に間違えて温めない


――レシピの発見場所

第559-AC1000地区レベル-1階層

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