第2話 サクサクインゴットとアンドロイド少女

――ゴトンと目の前に置かれたのはどう見ても黒っぽい鉄か何かの金属のインゴットだった。

 ササキ中尉はそれを虚ろな表情で眺めた。

 どう見ても質感といい大きさと言い食べ物ではなかった。


「いっぱいありますからねぇ」

 カシャ、カシャンと音を立てて目の前をエプロンを装着した人物……と言っていいのか分からないが、とにかくその人物が行き来する。腕に大量のインゴットを抱えている。


(これが今日の俺の夕飯か……)


 ササキはため息をついた。

 なんだか最近こんな日ばっかりだ。

 

 こっそりと基地から弁当になりそうなものを持ってくるのも考えたほうがいいかもしれない。

 誰かわからないが「食料は現地調達」と決めたやつを撃ちぬいてやりたい。そう思う日が最近増えてきたように思う。


「はい、どうぞぉ、お水ですぅ」

 女性……というより少女の声でその人物は水の入った何かの容器を持ってくる。

 その人物は見た感じは人間の少女のシルエットをしている。

 

 髪は長く銀に近い白だ。照明できらきらと光り若干透ける。

 肌もやや透き通った本物の白いシリコン状の物質で出来ている。

 美しいといっても過言ではない造形の顔だがやはり材質はシリコン状。

 目は何かのセンサーのようで人間のものと違い、ガラスのような光沢を放っている。目も銀色だ。


 彼女はまるでウェイトレスのような服装をまといササキの世話を焼いていた。


「お客さん運がいいですねぇ、3678日も誰もこなかったんですよぉ、だからいっぱいあります」


 ここは薄暗いがところどころに照明がついている。

 古ぼけた何かの部屋だ。

 ササキは偶然見つけた竪穴に調査のため入り込み、このスペースを見つけたのだ。


 入ったところで何か食べ物のイラストの入った看板らしきものを見つけ、入ってみたところ大歓迎されたというわけだ。どうやらここは何かの店らしい。そしてウェイトレスは少女の形状をしたアンドロイドだ。


 どういうAIかは不明だがおしゃべり好きの設定のようで色々と話しかけてくる。


 ササキは目の前の皿に目を戻した。

 どうみても鉄のインゴットだ。

 

 ササキはもう一度ため息をつき、ウェイトレスが嬉しそうに持ってきたそれを礼儀上、口に運んだ。

 いちおう口にいれる……。


 不思議なことに金属の味はしなかった。

 それどころかうっすらと塩味と酸味があり食欲をそそる芳香がただよっている。


(!?)


 ササキは本能的にそれをかみ砕いた。


 サクシャリッ!シャリシャリ!


 不思議な食感だ。

 砂糖菓子のようにほろりと崩れ、塩味とほどよい酸味、夏場にちょうどよい味が流れ込んでくる。

 水分を奪うようなタイプの食材でもない。

 そう、明らかに食べ物だった。


 驚いてインゴットを見つめなおすが、断面はどう見ても金属だ。

 呆然としていると厨房らしき奥に行っていたウェイトレスのアンドロイド少女が戻ってくる。


「それはとても人気ですよぉ、他にもデザートもありますよ」


 そう言って差し出されたのはどうみても銅のインゴットだった。

 いったいどういうことなのか。


 それも思わず口に含む。

 

 サクシャリッ!シャリ!


 同じような食感、しかし今度は甘い。自然な甘みだった。


「これは……美味し!……だな」

「でしょう、工場が稼働している間はたくさん作られてたんですよぉ」

「ほう……」

 

 ササキの目が光る。

「その工場は……今でも稼働しているのかい?」

「ここのところ出荷はされてないようですねぇ」

「ふむ……」


 ササキはインゴットを3つほどウェイトレスからもらいバッグに押し込んだ。

 そして彼女に案内を頼み"工場"とやらを見に行く。


 洞窟内部はもともとは何かの工事現場だったようで、ところどころに工事用の機械が放置されている。

 しかし注目すべきは、原始人やミュータントなどの気配がないことだ。


「ここですぅ」

「おぉ……」


 予想とはちょっと違った。

 10m四方ほどの小さな部屋に何らかのベルトコンベアや工作機械が並んでいる。

 コンベアの上には50cm四方ほどの立方体が並んでいた。


 慎重に立方体を調べたところ、単なるケースであることが分かった。

 見たこともない材質だがこの地区特有のものなのだろうか。

 軽くナイフを突き立てると簡単に開いた。

 中にはさっき目にしたインゴットが大量に詰まっていた。


「なるほど素晴らしい……」

「お役に立ててうれしいですぅ」


 ササキの任務のひとつに正常な食料の供給源を探すことというのもある。

 もしこの工場を再稼働することができれば中央に対する手柄になるはずだ。


 ササキはウェイトレスと別れ、その位置情報などを正確に記録した。

 うまいインゴットで腹も満たされササキは大満足だった。

 なお地上に出た瞬間インゴットは日光と反応したのか消滅した。


――後日、本格的な調査隊が工場に派遣された。

 奇妙なことにササキが報告したような工場やアンドロイドの少女は発見されなかった。

 そのかわりに複数の重力子が検出され、時空のゆがみが観測された。

 そして報告されたインゴットと思しきサンプルは複数個入手することができた。

 しかし危険を感じた調査隊はすぐに撤収。その地区は半径10kmを封鎖されることとなった。



――材料 (1人分)

謎のインゴット(鉄)……1個

謎のインゴット(銅)……1個


――作り方

1.ケースからインゴットを取り出す

2.皿の上に置く


――コツ・ポイント

金属状の見た目に騙されることなくかぶりつくべし


――レシピの発見場所

第122-AB3128地区レベル2階層

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