第2話 待ち合わせ

「お先です、お疲れ様でしたー。」

バイトは午後8時まで、お店も8時まで。

なので、あれこれとしている内に何時もお店を出るのは、8時10分過ぎになってしまう。

遅くなると20分以上経つことも。

だから今日は大急ぎでお店を出た。

だってこの後、園田君が会ってくれるから。

でも・・本当に来てくれるのかな。


「園田君と話がしたいな。」

・・・・・・・・・・・・・・・・・そうお願いした後・・・。


「え?俺と?」

予想外の僕の言葉に少しびっくりしているような園田君。


「うん・・。」

まだふわふわした感じが抜けない僕。

あんなお願いをした自分が恥ずかしくて声も小さくなってしまった。


「な・・何で?」

まだ予想外の様子な園田君。

不思議そうな顔してる。


「何でって・・、あんな事しされて、びっくりしたし・・。それに何であんな事したんかなって・・。」

キスされた事を口にするのが恥ずかしく、顔を合わせづらくなって、園田君から目をそらしてしまう。

本当なら、お願いなんかしないでこのまま終わらせたら良いんだと思う。

でも、それでは自分の気持ちが収まらない、収められない。

この気持ちは何だろう。

分からない。

もしかしたら、そんな自分の気持ちを確かめたいのかな、僕。


「そやな。このまま逃げたら、俺、極悪非道で卑怯モンやな。」

ようやく僕の言いたい事を理解してくれたのか、園田君は僕の顔をまっすぐ見て、真剣な顔で、そして、はっきりした口調で答えてくれた。


そして・・そんな園田君がカッコいいな・・と思ってしまう、僕。

この僕の気持ちは・・何だろう。


「じゃあ、話、してくれるん?」

僕も園田君の顔をまっすぐ見て・・

でも、また僕の頬はピンクになってるに違いない、恥ずかしいな。


「うん、ええよ、ちゃんと岡崎に話する。」

また岡崎君の真剣な顔。

あ・・益々カッコいいな・・。


「ありがとう。じゃあ、学校が終わってからで良い?」

お願いを受け入れてくれて嬉しいな。

ようやく少し落ち着いてきたかな。


「しゃーけど俺、クラブがあるから終わってからでないと会われへんけど、それでもええんやったら。」

少し申し訳なさそうな園田君。

でも僕は園田くんが部活やってるの分かってるから大丈夫。


「僕もバイトがあるから、終わってからの方が都合ええんやけど。」

少し普通に話せてる気がして嬉しい僕。

そう、普通に・・普通に。。


「バイト、何時に終わるん?」

園田君も普通に答えてくれてる・・気がする。


「8時。I駅近くの本屋さんでバイトしてるんやけど、それでも良かったら。」

ちょっと時間が遅いから断られるかなと思いながら尋ねた。


「俺は8時前までクラブやってるから、8時の最終のスクールバスには乗れると思うけど、それやとI駅に着くの8時半頃になるかもしれへんで。」

時間が遅くなるのを心配してくれてるのかな。

心配そうに応えてくれる園田君。


でも僕は、園田君の顔を見て、はっきりお願いした。

「うん、8時過ぎにI駅のスクールバスが止まる所で待ってるから。」


「遅れるかもしれへんで、それに時間的に遅いんとちゃうか。ほんまに大丈夫か?」

やっぱり心配してくれてた・・・。

嬉しいな。


「うん大丈夫、待ってるから。」

精一杯の笑顔(たぶん引きつってる)で応えた。


「・・・・、ほんなら、8時過ぎにI駅で。」

何故か一瞬間が空いて返事をしてくれる園田くん。

にこっと微笑んでくれた。

その優しい微笑みにドキッとする僕。


ほんの一瞬、見つめ合ってしまった。


「・・・・」

目が離せない。

何も言えない。。

また、心と体がふわふわ。


「・・・・」

園田くんも何も言わない。

じっと僕の目を見てる。


数秒間の沈黙。


我に返った園田くんが

「あ・・・。」

と小声を上げた。

「ほんなら、その時間な。」

恥ずかしそうな顔をして僕から離れていこうとする。


「どこ行くん?講義受けへんの?」

咄嗟に引き留めるような事を言ってしまった。

もう少し側にいて欲しいな・・。

遠回しに隣に座って欲しい気持ちを口にした。


・・でも園田くんは、

「いや・・ほら・・もうそろそろ他の連中来るし、友達も入ってくるから、お・・俺、あっちの席に座ってるわ。」

頭を掻き、恥ずかしそうに苦笑いしながら僕から離れた席を指さした。


「そう・・。」

『隣に座って欲しいのにな。』

・・・そう思いながら少し寂しい気持ちになってしまった。


そんなやり取りを思い出しながら、

『待ち合わせ場所に来てくれるかな。』

少し・・いや、かなり心配してる僕。

でも、急ぎ足で向かう僕。

I駅から自宅までは自転車だけど、自転車は駅の駐輪場に置いてあるので、約束の場所には歩いて行かないといけない。

バイト先から普通に歩いても5分足らずだけど、なぜか急ぎ足になってしまう。


最終8時発車のスクールバスがI駅に到着するのは多分、15分後位。

だから急がなくても十分間に合うのだけど、なぜか園田君より早く約束の場所に到着して待っていたい。


約束の場所には8時10分頃に到着。

スクールバス用じゃ無いけど、木製のベンチがある。

そのベンチに座って待ってると、思った通り15分頃にスクールバスが到着した。

最終と言う事でクラブを終えた学生が大勢乗っている。


降りてくる人の中にいるはずの園田君を探す。

・・・でも・・・いなかった。


『え・・? なんで・・? でも、もしかしたら最終のバスやし、もう一台出てるかも』

僕は、不安に駆られながらも一縷の望みを託して、もう少し待つ事にした。

でも・・何分待ってもスクールバスは来ない。

5分・・10分・・15分・・

時が過ぎていく。

『もうちょっと・・もうちょっとだけ。。』

そう自分に言い聞かせながら待った。


でも来ない・・。

痛くなる胸。

絶望・・裏切り・・

そんな言葉が頭の中をぐるぐる駆け回る。


『もう帰ろう・・。』

そう思うのに体が動かない、動かせない。

下を向いたまま固まってしまった体。


待ち始めて30分、

息を切らせて僕の前に立つ人が。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ・・、ご・・ごめん。遅なってしもた。」


顔を上げると・・・園田君だった。

嬉しさで自然に涙が溢れてきた。


「き・・来てくれたん? ありがとう。」

嬉しさで殆ど意味不明な返事しか出来ない僕。

そして・・

ほんの少しでも園田君を疑ってしまった自分が恥ずかしい。


「約束したやん。遅なって、ほんまごめんな。かなり待ったやろー。」

優しい声。

益々涙が溢れてくる。


「ううん、そんなに待ってへんから・・。」

涙が溢れてるのを見られたくなかったからまた下を向いてしまった。

震えて小さい声しか出ない。


「嘘つけ。お前、下向いて固まってたやん。待ちぼうけ食らわされたと思てたんやろ。」

優しく僕を気遣う園田くんの声。


「え・・あ・・疑ってごめんね。来てくれてありがとう。」

溢れてきた涙を手で拭いながら顔を上げて応えた。

まだ声が震えてる。。


「わ・・泣かんでも・・。ほんま、ごめんな。」

僕が涙を溢れさせてるのを見て少しびっくりしたのか、また謝る園田くん。


「な・・泣いてへんよ・・。」

僕は強がって応えたけど、園田君は、


「嘘つけー。」

笑いながらも困り顔。

そして僕の隣に腰を下ろした。

体が密着してる。

『え?』

戸惑いドキドキな僕。


「でも何で遅れたん?」

少し落ち着きを取り戻したので聞いてみた。

園田くんの方に顔を向けると、目の前に彼の顔が。

近すぎ・・。

うう・・もっと、どきどきどきどき・・。


「それがな・・最終のスクールバスに乗り遅れてしもて・・。

こういうときに限って部長の終礼が長いんやなー。それでシャワー浴びて着替えてる間に最終バスが行ってしもた。はは・・。」

バツ悪そうに頭を掻く園田君。


「それで、どうやってここまで来たん?」

そんな時間まで学校に残った事が無い僕は、素直な疑問をした。

ああ、やっぱり顔が近いし体が密着してる・・。

もっと、もっと、どきどきどきどき・・。


「それでな、急いで路線バスで来たんやけど、走ったと思たらバス停で止まるしで、遅なってしもた。おまけに路線バスのI駅バス停ってスクールバスのバス停から離れてるしな。」

落ち着いた声。

どんな表情してるのかな。

体が密着してるせいで恥ずかしくて園田君の顔を見る事が出来ない僕。

園田君の体温が伝わってくる。


「それで、息切らせながら走ってきてくれたん?」

園田君の体温を感じながら、小声で尋ねた。

もっと、もっと、もっと、どきどきどきどき・・。。


「約束してたし・・。もうお前待ってへんやろと思いながら小走りしてたんやけど、ぽつんと座ってる岡崎見つけたら無意識に猛ダッシュしてしもた。ほんまごめんな、体、冷えたやろ。 」

優しく僕を気遣う園田君の声。

『肩に手を回してくれへんかな・・』

そんな不謹慎なことを考えてしまう、僕。


「・・園田君真面目すぎ。」

下を向いて小声で応える僕。

園田君の優しい言葉で、胸がキューッと痛くなる。

僕、園田君の事好きなのかな・・・。


「岡崎こそ、ずっと待ってて律儀すぎやろー。」

優しく気にかけてくれる園田君の声。

その声に包まれてどきどきふわふわな僕。

二人してクスクスと笑ってしまった。


「それで、どこで話してくれるん?」

思わず見てはいけない園田君の顔を見てしまった。

『あ・・かっこいいな。』

どんどん、どきどきふわふわ。


返ってきた返事は、

「あー、えっとなー、俺な・・」

なんか言い出しにくそうな、園田君。


「どうしたん?」

もしかしたら断られるのかなと不安になる僕。

ふわふわなどきどきが不安などきどきに変わる。


でも、返ってきた返事は、

「腹減った。何か食べたいんやけど。」

照れくさそうに頭を掻く園田君。


「ええよ。僕もお腹空いてるし、何か食べよ。」

安心したのと園田君の表情を見て、クスクス笑ってしまう僕。


「ほんなら、駅ビルの中のとんかつ屋さん行こか。」

待ち合わせで会ってから初めて園田君の明るい声を聞いた。

やっぱり優しく明るい園田君がいいな。


「うん、そこでええよ。」

僕も明るく応えた。

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