第127話 厄介な術
ティアとミゴールが近衛隊を介した押し問答を繰り広げている最中、ハルナはレイピアを構え、レンと対峙していた。
「どうしても通さぬつもりか……」
「はい! トーラスさんもティアちゃんもセシルちゃんも……私にとっては大切な仲間ですからっ!」
「隙が無い……いい構えだ。成長したな、ハルナ」
レンは、娘に対して剣を構えながら微笑む。
「それにその剣……。なんの変哲も無い、普通のレイピアではないか。その剣で治癒剣術が使えるようになったという事は、もう俺が教える事は無いはずだ。あとは自分の力で、治癒剣術を極めてみせよ!」
「あっ? えっ? こ、この剣? ……あはは……そうだね。前のパーティではメンバーにボコボコにされて、このパーティでも殺されたりして、たくさん苦労したから……かな」
その瞬間、レンの様子が変わる。
「ボコ……ボコ……? 殺され……た!? ハルナ、どういう事だ! ちゃんと父さんに事情を話しなさい!」
そう言ってレンは剣を納め、どっかりと地面に腰掛ける。
ハルナもレンの目の前に座り、自身が父と別れてから、今に至るまでの経緯を語り始める。
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「サービス残業ばっかりじゃ!」
「シフト勤務を厳格にします!」
「ボーナス増やせ!」
「検討します!」
「ハァ、ハァ……、おっと! く……小娘め、なかなかやるのう」
近衛隊を挟んでティアと言い合いになっていたミゴールが息切れを起こしたところで、騎士の斬撃が彼の身体を掠める。
「ハァ……ハァ……れ、レン殿は一体何を……」
ミゴールの目に、ハルナと膝を突き合わせて話し込むレンの姿が映る。
「レン殿ォーーー!! 何故……何故今そんなことをしておるのじゃ! その娘子はトーラスを殺してから連れて行く予定なのじゃから、娘子と話したかったら、後で幾らでも時間があるじゃろ!」
ミゴールの必死の叫び声を聞き、レンは重い腰を上げる。
「相分かった。加勢に参る」
しかし、レンの前には再びハルナが立ちはだかる。
「行かせません! トーラスさんも、ティアさんも、誰一人死なせません!」
「ハルナ! これ以上邪魔をするなら──」
その時であった。
「こっちだ! いたぞぉ!!」
林の中に居るハルナ達を見つけて声を上げたのは、ハルナ達の知らない男であった。
「何奴!?」
「え……? だ、誰……?」
きょとんとするハルナ達の前に、続々と男たちが現れる。
すると男たちの一人が口を開く。
「グレインの仲間はどいつだ?」
「あ……はい、私ですっ」
半ば反射的に手を上げるハルナであったが、グレインの名を聞いて安心したのか、その顔は綻んでいた。
「あんたか。俺達はサランギルドの冒険者だ。グレインに頼まれてあんた達を迎えに来た。……『敵襲があるかも』って言われたが、まさか本当に襲われてるとはな」
冒険者の男は、レンに対してレイピアを構えるハルナを見ながらそう言った。
「グレインに……冒険者ギルドだと!? アウロラさんは……どうなったのだ!」
レンは慌てた様子で冒険者に食ってかかる。
「あぁ? あの裏切り者の元ギルマスか? グレインにやられて拘束されてるよ」
「なんと……。やはり我らも帯同すべきだったのだ!! こうしてはいられない! ミゴール、サランギルドへ──」
レンがミゴールの方を見ると、彼の首には二本のナイフが突き付けられていた。
ダラスとリリーが、ティアとの口論に精一杯になっているミゴールに忍び寄っていたのだ。
「……ふぅ……。あなた達は待機してください」
ティアは大きく息を吐き、近衛隊に命令する。
ミゴールに迫っていた近衛隊は動きを止め、ダラスとリリーを見守っている。
「ニビリムで散々な目に遭わされたからね……。お返しよ!」
木陰に隠れていたラミアが姿を現し、詠唱を始めると、ミゴールの足元に魔法陣が浮かび上がる。
「おのれェッ!」
レンはハルナを含め、自分を取り囲む冒険者たちと剣戟を始める。
「お嬢様の危機だというのにッ!」」
ミゴールは思い通りに事が進まないもどかしさと怒りからか、全身をわなわなと震わせる。
「レン殿ォッ! その娘子だけは抑えておれ! 『
ミゴールを中心に魔力の突風が巻き起こる。
しかし、その風でダメージを受けた者は誰もいなかった。
「何を……した……?」
ようやく起き上がる事ができたトーラスが、ミゴールを睨む。
「さて、何じゃろな? 儂はこれから貴様等を始末して、すぐお嬢様の元へ加勢に向かう。……さぁ止められるものなら止めてみい」
最初に異変を感じたのはラミアであった。
「詠唱が……できない! 何でなの!?」
ラミアの異変に気付いたダラスとリリーがナイフを握る手に力を込めるも、ミゴールの首筋に添えられたナイフはぴくりとも動かない。
「……なに……これ……。手が……動かない」
「ぐっ……。何をした!?」
「なに……単なる呪いじゃよ。『儂に危害を加えられない』というだけのな」
ミゴールは飄々とした様子で呟く。
「あぁ、正確に言うと、儂と、『儂の眷属』じゃったわ……」
ミゴールが両手を掲げると、彼の周囲から十数体の骸骨兵士が現れる。
「さて、それじゃあ無抵抗な諸君の身体は、これから骸骨兵士の訓練に使わせてもらおうかの。ヒェッヒェッヒェッ……」
ミゴールが人差し指を動かすと、骸骨兵士の一体がダラスに斬りかかる。
ダラスは短剣で受け止めようとするが、剣を持つ手が動かない。
ダラスは仕方なく左腕で骸骨剣士の斬撃を受け止める。 その一撃は重く、ダラスの小手を貫通し、腕まで到達する。
「くっ! 厄介な術だ……」
「ダラス! 腕から血が!」
不気味な笑みを浮かべるミゴールが、次に標的にしたのはリリーであった。
今度は二体の骸骨剣士がリリーに斬りかかる。
「ナイフがっ……持てない……!」
「リリー殿、受け止めずに躱すのだ! 今出来る事はそれしかない! とにかく……生き延びるんだ……」
ダラスが骸骨剣士に戦慄くリリーに声を掛ける。
彼自身も、一体の骸骨剣士からの斬撃を必死に躱し続けていた。
リリーはダラスの方をちらりと見て、短く頷く。
「そうじゃそうじゃ、躱すしか無いのじゃ! さぁーて、何回躱せるかな!? 褒美に、百回躱すごとに兵士を一体ずつ増やしてやろうか」
そう言って、嫌らしい笑みを浮かべるミゴール。
「やっぱこの爺さん、ろくな性格じゃねぇな。おいジジイ! ……うちの主力を玩具にしてんじゃねぇぞ!」
ミゴールの背後から、グレインが現れた。
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