第128話 パーティリーダーの責任だよ!

「グレイン、貴様……よくもお嬢様を! かかれっ!」


 ミゴールの合図で、彼の周りにいた骸骨兵士達がグレインに襲い掛かる。

 グレインは骸骨剣士の斬撃をバックステップで躱し、別の骸骨戦士がモーニングスターを振りかぶったのを見て腰の剣を抜こうとするが、やはり手が動かず、既のところで骸骨戦士の打撃を躱す。


「なるほど……爺さんが認識してなくても呪いはかかるみたいだな」


「ヒッヒッヒッ……どうじゃ? 怖いじゃろ、抵抗できない状態で一方的に襲われるのは」


 ミゴールはニヤついた顔で満足そうに言う。


「要するに、お前に『危害』を加えなければいいんだな?」


「まぁ、そうじゃな。とはいえ、危害を加えずに儂の行動を止められる訳がなかろうて。それじゃあ、さっさと終わらせるとするかの」


 ミゴールはさらに口角をつり上げる。

 しかしグレインは、骸骨兵士達の攻撃を必死に躱し続けながら、大声で叫ぶ。


「セシル! お前を強化するから、こいつら全部吹き飛ばしてくれ!」


 仲間が一方的に攻撃されているのを、何もできずオロオロしながら見ていることしか出来なかったセシルは、突然自分の名前が呼ばれたことに驚く。


「え、でも魔法の詠唱は……」


「いいから! 駄目かも知れないが、やってみてくれ!」


「わ、分かりましたわ。……『光線治癒レーザー・ヒール』!」


 翳したセシルの掌から光線が飛び出し、ミゴールの隣にいた三体の骸骨兵士を次々と貫通し、骸骨兵士達を蒸発させていく。


「はぁッ!? な、何で攻撃魔法が撃てるんじゃ!? まさか呪いの解除を……」


 ミゴールが狼狽し、ぶつぶつと呟く間に、セシルはグレインとリリーを骸骨戦士から救い出す。


「ダラス、気を付けろよ? セシルの光線に当たったら命はないぞ」


「あぁ、分かった。……それにしても……物凄い威力の魔法だな」


 そしてセシルの光線が、ダラスに襲い掛かる骸骨剣士を消し去る。

 しかし、骸骨兵士達が消されていくのを黙って見ているミゴールでは無かった。


「おのれ……『万能防壁呪マルチ・ウォール』!!」


 再びミゴールを中心に魔力の突風が吹き荒れるが、セシルはお構いなしに光線で骸骨兵士達を焼き払っていく。


「ななな……何故効かんのじゃ! あの小娘、どう見てもただのエルフじゃ……ないのか? ……ま、まさか!」


 ミゴールは謎が解けたと言わんばかりにセシルを見て叫ぶ。


「さては……長年生きて呪いに対する耐性を身に付けたのじゃな、この化け物ババァエルフめ! どうせ儂より歳上なんじゃろ! おい、お主は何千年生きたエルフなんじゃ!?」


「ば、化け物……ババァ……」


 そう呟くセシルを、グレインが恐る恐る見ると、彼女の顔には青筋が浮かんでおり、全身をぷるぷると震わせていた。


「……今すぐ……今すぐその発言を訂正して撤回して陳謝して逆立ちしてひっくり返って土下座して賠償して謝罪しなさい!!! 貴様だけは……何をしても許しませんわ!」


「「「許さないなら謝罪する意味が……」」」


「セシルがキレた……」


 グレインがぽかんとした様子で一言だけ呟く。


「お前の骸骨兵士達……一匹残らず消してあげますわ!」


 セシルは光線を放つのをやめ、両手を翳す。

 次の瞬間、両掌から無数の光弾が放たれ、次々と骸骨兵士達に殺到する。

 骸骨兵士達は成すすべもなく、セシルの放つ光の中へと消え入るように蒸発していく。


「や、やめんか! あぁ……儂の眷属たちが……」


 セシルが光弾を放つのをやめた時、セシルの目の前にはミゴールしか残っていなかった。


「セシル、すごいな。あれだけ魔法を撃っても、ミゴールにだけは当てないなん──」


「最後はお前の番ですわ」


 ミゴールが移動しようとしたその足元に、セシルの光線が到達する。

 セシルは掌から光線を放出したまま、その光線をミゴールの首筋に近付ける。


「……何か言い残したことはありますの?」


「お嬢様の身が気掛かりじゃ。……言い残した事はそれだけじゃ……。後は、何故お主が儂に楯突くことができるのか、お主たちはアドニアスの手の者なのか、お主に消された骸骨たちの冥福を祈りたい……ぐらいじゃな」


「「「「いっぱいある」」」」


「分かりましたわ。では、それはあの世で言いなさい」


「「「「聞いといて言い残せない流れ」」」」


「セシルが暴走してる……。トーラス、止めてくれよ! ミゴールはここじゃなく、正式な手続きで死刑にされるべき犯罪者だ」


「っ!? なんで僕が?」


 突然大役を任されたトーラスが慌てている。


「大丈夫だ! セシルはお前の言う事なら聞くから!」


「いや、これはパーティリーダーの責任だよ!」


 トーラスは全力で拒否する。

 それもその筈、セシルの目の前に放出され続けている光線は、触れただけで死が迎えに来るレベルの危険な魔法なのだ。

 当然、発動者に近寄りたくはない。

 かと言って光線を止めてしまうと、今度はミゴールが攻勢に出るので止めることもできない。


「しょうがない……じゃあ……俺が……」


 トーラスに促され、渋々とセシルに近付くグレイン。


「なぁ、セシル。殺すのはちょっと待ってくれ──」


「何ですの!? わたくしの邪魔をするのですか?」


 光線はそのままに、グレインの方を睨むセシル。


「いえっ、何でもないです……」


 すごすごと引き下がるグレイン。


「いや、これは僕にも無理だよ……」


 グレインに対するセシルの剣幕に驚いて後退りを始めるトーラス。


「頼むよ! お前の言葉ならきっと彼女にも届く! ……はず……かも知れない……といいな……と思う……」


「そんなの無理だよ!」


 押し合いへし合いを始めるグレインとトーラスの首に、ナイフがあてがわれる。


「……兄様……ミゴールを拘束して、同時に魔法障壁でセシルちゃんの魔法を止めて。早く! 殺しちゃう前に!」


 そう言われて動き出したトーラスを見ながら、深い溜息をつくリリーであった。

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