第124話 休んでいてくれ
一方、サブリナを抱えて会議室を飛び出していったグレインは、ギルドのロビーで冒険者たちに取り囲まれることになった。
「てめぇ……まさかナタリアさんまで手に掛けやがったか!」
「この人殺し!」
「メテオミートボール一皿追加で!」
「俺達が黙ってここを通すと思ってんのか?」
「女連れでこれからお楽しみかい? ヘッ! ぶっ殺してやる!」
「雪景色サラダ、チーズ特盛で!」
「生きてこのギルドから出られると思うなよ!」
「まぁ、こうなる事は予想してたけどな……確かにギルドから生きて出られそうにないな……。とりあえず、普通に飲み食いしてる奴は何なんだよ……」
ちょうど階段を降りたところで足止めされたグレインは溜息をつく。
「みんな、ちょっと話を聞いてくれ!」
そんなグレインの後ろから、セイモアがロビー中に響き渡るほどの声で叫ぶ。
「おい、セイモアさんだ!」
「無事だったのか……」
「セイモアさん、そいつを殺してくれ!」
冒険者達は口々に思いの丈を叫ぶ。
「静かに! ……結論から言うと、グレインの指名手配は濡れ衣だ! 黒幕は……悲しい事にアウロラさんだった。ナタリアさんも無事だ! アウロラ容疑者と協力者のミレーヌ容疑者は、二階の会議室で拘束している! だから、グレインを通してくれ! 彼は俺を助けてくれたんだ、頼む!」
三段ほど階段を上がったところに立っているセイモアが、ロビーに向けて頭を下げる。
それを見た冒険者達はざわつき、戸惑いながらも少しずつギルド入り口までの道をあける。
「セイモアさん、みんな、ありがとう!」
グレインはサブリナを抱き上げる腕に力を込め、ギルドの入り口へと駆け出す。
ギルド入り口のドアをくぐるところで、グレインがロビーに振り返る。
「……同じサランを拠点とする冒険者のみんなを信頼して、一つお願いがあるんだ!」
********************
サブリナは、かつてグレインがリーナス達に暴行を受けた時に運び込まれた治療院のベッドに横たわっている。
サブリナの脇にはグレインが付き添い、彼女の手を握っている。
「なるほど……。言われてみれば、必ずしもパーティメンバーに回復してもらう必要は無いのじゃな」
「あぁ、金さえ払えば、治療院で治療を受けられるのをすっかり忘れてたよ。俺もここには世話になったからな……あっ……」
突如、グレインの手がぎこちなく固まるのをサブリナが感じ取る。
「ダーリン、どうしたのじゃ?」
「以前、大怪我をした時の治療費、ナタリアに立て替えてもらってたのを思い出したよ。よく考えると、まだほとんど返してなかったような気がする」
「なんじゃ、それなら心配無用じゃろ。この一連の騒動が収まったら、トーラス殿とティア殿からたんまり報酬を貰って、それを第一夫人……ナタリア殿に渡せばいいのじゃ。なんせ王都を代表する商会の主と、未来の国王じゃからな」
「トーラスはまだしも、ティアの方は国を潰すとか潰さないとか言ってるからあまり期待してないけどな。……そういえば、その『第一夫人』ってよく言ってるけど、俺はまだ、誰とも結婚してないからな?」
「ふふ……その話も、この一連の騒動が終わってから……じゃな」
そう言ってサブリナは微笑む。
「まぁ……そうだな。……じゃあ、俺はそろそろ行くよ。ギルドの皆に頼みっぱなしで、肝心の俺が行かないんじゃ申し訳ないからな」
グレインはそう言うと、握っていたサブリナの手の甲を優しく撫でてから手を離し、椅子から立ち上がろうとする。
「それじゃ、妾も行くの──」
「サブリナ、済まないがお前は、ここでもう少し休んでいてくれないか?」
グレインは、ベッドから起き上がろうとするサブリナの両肩にそっと手を添えて、その動きを制する。
「しかし……」
「なぁ……、サブリナは、少し無理をし過ぎじゃないか? なんか……焦ってるようにも見えるんだ」
「…………妾は……魔族じゃから……人間族ではないのじゃ。……じゃから……皆に受け入れてもらいたくて……」
サブリナはそこまで言うと、再び枕に深く頭を沈めて目を瞑る。
「……それなら、尚更これまで頑張ってくれた分、今はゆっくり休んでいてくれ。……種族なんて気にしない。それは俺もそうだし、他のメンバーもそうだ。俺達『
グレインの言葉に、サブリナは目を閉じたまま笑みを浮かべ、やがて静かに寝息を立て始める。
その様子を見届けたグレインは、静かに病室を出る。
「さて……行くか、みんなのところへ!」
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