第045話 戦うんだ
「なぁダラス、なんであんたはそんなにあの女を助けたいんだ? ラミアと一緒にトーラスを殺して、ソルダム家の財産を手に入れるのが目的か?」
グレインは応接室の床に座り込んでいるダラスの目の前に立ち、率直な疑問をぶつける。
「いや、大事なのは財産じゃないんだ。ラミアが……俺は彼女の事を──」
「なぁ、俺はあの後、三日三晩生死の縁を彷徨ったんだ。それも偶然ここにいるハルナが、俺の事を見つけてくれたお陰で、だ。もしも彼女がいなかったら、……俺はここには居ない。別に俺は何か悪いことをした訳じゃないんだぞ? ただジョブが無い所為で、少しばかり足手まといだと言われていただけだ。その俺をあんな目に遭わせた女なのに、死にそうだから助けてくれだって!? 虫がいいにも程があるってもんだろ!?」
ダラスの話を遮って大声を上げるグレイン。
彼の話を聞いて当時の事を思い出したのか、ハルナは仮面の上からでも分かるほど悲痛な顔をして、グレインの左腕に抱きついている。
「そうか……。そりゃそうだよな……。何らかの対価が必要だと言うことであれば……っ! ……うううっ!」
突如ダラスは背負っていた短剣を抜き、座ったまま自らの腹部を切り裂いた。
ダラスの腹から腕を伝い、肘から絨毯へと血が滴ると同時に、濃厚な血の臭いが応接室を包む。
「お前、一体何してんだ!?」
「対価……だ。俺の……いの……ち……で……」
「はぁ……。ハルナ、頼む」
「はいっ!」
ハルナは懐からあの矢を取り出し、ダラスの背中側から突き刺す。
勿論、グレインはハルナを強化するのを忘れていない。
ダラスの腹部に突き立てられた彼の短剣は、ハルナの治癒によって傷が癒えるに従い、身体の外へと押し出され、終いには絨毯の上に転がった。
「なっ!? これは……回復魔法なのか? こんな出鱈目な威力の回復魔法など、見たことがない」
もはやダラスは自らの命を絶つ事よりも、ハルナの治癒剣術の方に関心を寄せていた。
ハルナは笑顔でダラスの背に刺していた矢を引き抜き、再び懐へとしまう。
「ダラス、あんたは何もしてないじゃないか。あの時、俺が暴行されていた時も、あんただけは俺に手を出さなかった。あんたは生きててくれよ。俺が殺したいほど憎いのはラミアなんだ。決してあんたじゃない」
座ったままハルナの方を見て、茫然としているダラスをグレインが諭す。
「し、しかし、俺の命を捧げなければ、あんたたちはラミアを助けてくれないだろう! 現に、こうしている間にも彼女の命が失われているかも知れない。ラミアの命は刻一刻と失われようとしているんだ!」
グレインは溜息交じりに言う。
「そもそも、だ。俺達が加勢すればその刺客とやらには勝てる見込みがあるのか?」
「分からん。ただ、トーラスほどの黒魔術の使い手ならば、おそらく負けることは無いだろう。トーラスと奴が戦えば、きっとラミアを助ける隙が出来る筈だ」
「……トーラスが命懸けで戦っている間に、お前は女を連れて逃げますって言ってるのか? お前の頼みを聞いて命を懸ける男を、お前はただの囮に使う気なのか?」
グレインは怒りに満ちた目で、終始無言のダラスを睨みつけ、言葉を続けた。
「まだ分かんないのか!? 戦うんだよ! 俺のパーティと、お前とラミア、トーラスとリリーで、戦うんだ!! 逃げようったって逃げ道は無いんだ。 闇に紛れて逃げようもんなら、それこそ奴らの思う壺だぞ。あいつらは暗殺が得意だからな。事件にもならず、二人でひっそりと死ぬことになるだろうさ。闇ギルドに歯向かうつもりなら、闇ギルドをぶっ潰すしかないんだ!」
珍しく語気を強めたグレインに、ダラス以外の者たちは目を丸くして驚いていたが、当のダラスはグレインを見つめ、強く頷いた。
「あぁ……そうか。俺としたことが、一度敵わなかったぐらいで心が折れていたようだ。だが、もう迷わんぞ! 俺は闇ギルドから抜ける。そしてラミアを助けるために……闇ギルドと戦うんだ!」
そう叫んで立ち上がり、拳を高く掲げたダラスに、周囲の面々も声を掛ける。
「そうですわ、今こそ皆で戦う時ですわ!」
「闇ギルドなんてぶっ潰しちゃいましょうっ!」
「私も……戦う……! 兄様は……守るから!」
そうだそうだ、と腕組みをして頷くグレインの肩を、慌ててトーラスがつつき、小声で話し掛ける。
「(グレイン、これって何だか、僕たちがラミアを助ける流れになってない?)」
「(……あれ? そういえばそうだな。助けるって言うか、共闘する感じになってるな。そしてラミア本人の意向を完全に無視してたの忘れてた)」
しかし、二人がそれに気付いた時には、既に共闘が多数派意見となっており、その場の空気を変えることができなかった。
こうして、『
「非常に、ひじょーーーに不本意だが、まずはラミアと合流して、あいつが俺達と一緒に戦う気があるかどうかを確認するぞ。ただし、俺達が到着したときにラミアが既に死亡していた場合や、ラミアが共闘を拒否した場合、この話は無しだ。ラミアが死んでいた場合、仮に刺客に出くわしても『任務成功おめでとう』とか適当に言って無関係を装うぞ」
「不謹慎ですわよ! ……特にダラスさんの前では」
セシルに窘められるグレインは、少しばつが悪そうな顔をしながらも話を続ける。
「あぁ……、すまん。まぁ、そこは刺客と戦闘にならなきゃどうでもいいさ。それでダラス、刺客ってのはどんな奴なんだ? 持ってる情報全部出してくれ」
「姿を見た訳ではないんだが、あの術は……呪術師ミゴールの仕業だ。闇ギルドの最高戦力とされているうちの一人だ」
「おぉっと、最高戦力って……思いの外大物じゃないか。ホントに俺達で勝てるのか? というか、それ以前に戦えるのか? 戦いと呼べるものになるのか? 一方的に蹂躙されてお終い、って話にならないだろうな……」
「俺にも、奴の底力が見えないんだ。と言うかそもそも、奴の姿が見えない」
「姿が見えない敵に殺されるとか全力で拒否したいんだが……。なぁ、ラミアは今一体どこにいるんだ?」
「ここ王都より少し西に行ったところに、ニビリムという小さな町がある。ラミアは、そこの住民に追われて町の中を逃げ回っているんだ。……住民はおそらく全員、ミゴールに操られている」
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