第024話 幹部登場

「なんか面倒事を押し付けられる予感しかしないぞ」


 グレイン達『災難治癒師カラミティ・ヒーラーズ』が、結成して初めての依頼を完遂してから一週間が経とうという頃、突然ギルドに招集されたのである。

 そして彼らが今いるのは、ギルド二階の会議室。

 明らかに内密な話をする為の場所であった。


「全く見当がつきませんねぇ」


「最近依頼を受けてないから、もっと働けとのお叱りかも知れませんわよ?」


 そう、『災難治癒師』の面々は、ゲレーロ盗賊団捕縛の報奨金で、この一週間を気ままに暮らしていた。

 報奨金は半分をナタリアへの借金返済に充て、残金を三人で山分けしたのだった。


 三人がそんな話をしていると、徐ろに会議室のドアが開き、見慣れない猫耳の女性とナタリアが入ってきた。

 猫耳の女性はナタリアと同じ二十代前半ぐらいの見た目であったが、腰まである長い白銀の髪と、頭の上に見えている猫耳が目を引いた。


「っ!」


 会議室に入って来る二人の姿を見て、グレインと、何故かセシルが緊張した面持ちになる。


「な、ナタリア……。久しぶり」


「……フン!」


 グレインが幾分ぎこちない感じで話しかけるも、ナタリアの反応は取り付く島もないものであった。

 グレインはナタリア家侵入事件の後、その気まずさから、あまりナタリアにもギルドにも近寄らないようにしていたため、彼女と顔を合わせるのは実に一週間振りなのだった。


「なぁナタリア、まだ誤解してるのか? あれはただの冗談だって。俺はただお前の寝顔をチラッと見ただけで──」


「寝顔!? あなた、ナーちゃんとどういう関係!?」


 突如グレインに食って掛かる猫耳の女性。


「え? え、いや……。別にどうと言う関係でもないな」


「へー。無関係の人がナーちゃんの寝顔を見るんだーそうなんだー」


 女性は半目でグレインを見ている。


「猫耳ちゃん、そもそもあなたはどちら様ですか」


「グレインさん! ね、猫耳ちゃんなんて失礼ですわよ! この方がサランのギルドマスター、アウロラ様ですわ!」


 セシルがいつになく、やや慌てた様子で紹介する。

 紹介された女性──アウロラは、グレインに対してにこやかに手を振っている。


「そうなのか! サランのギルマスって獣人だったんだな。……そもそも、獣人とか亜人なんてほんとにいたんだな。初めて見たぞ」


「ウチ、ほとんどこの町にいないからねー。昨日まで王都に遊びに行ってたし。あ、ちなみにウチは獣人じゃないよ?」


 そう言って、アウロラは猫耳を取り外す。


「これ、ただの髪飾り。王都の雑貨屋さんで買ってきたんだぁー。猫耳かわいいでしょ? ね? どうだった?」


「この人やばい疲れそう」


 グレインは早くも辟易した表情を浮かべる。


「こんな人でも、わたくしの命の恩人ですわ。アウロラ様と、治療院のルビス先生がいなかったら、わたくしは今頃九名の殺人犯として処刑されていますもの」


「セシルちゃん、『こんな人』ってなーにさー。ひどいよぉ〜? あ、そうそう、それでグレイン、あなたはナーちゃんの何なの?」


 アウロラは思い出したようにグレインへの尋問を再開する。


「別に無関係よ! ギルドマスター、その話はもういいからさっさと本題に入りなさいよ!」


 ナタリアがアウロラの後ろから注意するが、敬意というものが一切感じられない物言いであった。


「はいはい。分かったよー。ナーちゃんはね、表向きはあんな態度とってても、本音は真逆なのよ? なのに素直じゃないから、その分損してるって言うか──」


「アーちゃん! いい加減にしろっつってんだろうがぁぁぁ!!」


「「「「ひいィィィ!!」」」」


 アウロラを含むその場にいた全員が、ナタリアのあまりの迫力に気圧されて悲鳴を上げる。


「……それにしても、アーちゃんとナーちゃんって、二人は友達なのか?」


「うん、そうそう! 幼馴染ってやつ? 物心ついた時から一緒でね、アーちゃんナーちゃんって呼び合う仲でー。まー、そんな幼馴染の二人が、今では辺境の片田舎サランの冒険者ギルドで、マスターとサブマスターの幹部コンビになってるなんて思いもしなかったよねー」


「「「えっ」」」


「ん? ウチがギルマスってさっき言われなかったっけ?」


「「「違うそっちじゃない」」」


「お、お姉ちゃん、サブマスターだったんですか……」


「そ、そうよ? 確か二年ぐらい前に就任したわね」


「わたくしも初耳ですわ」


「おい、俺は五年前からの知り合いなのに全然知らなかったぞ!? 何で教えてくれなかったんだ?」


「え……聞かれなかったし……。それに、ギルドの中に職員の組織図って張ってあるでしょ?」


「「「「そんなの読んだことない」」」」


「……待ちなさい。アーちゃん、あんたも今密かに『読んでない』って言ったね? ギルマスがそんな事でどうすんの!?」


 そしてギルドマスターは会議室の床に正座させられ、サブマスターから説教されている様を、しばらくの間グレイン達は見せられる羽目になった。


「ナタリア……いやナーちゃん、そのお説教はいつまで続きますか……? 俺達は帰ってもいいかな?」


 グレインが恐る恐る聞いてみる。


「ナーちゃんって呼ぶんじゃない! あと、あんた達にちゃんと用事はあるのよ」


「そろそろお昼になりますわね……。今日のお昼は何にしましょう……」


「私もお腹が空いたので、下の酒場でお昼ご飯食べてきてもいいですか? 私、今日はメテオミートボールにしますっ!」


「あー、酒場行くなら俺も一緒に行きたいな。俺はロングロングホットドッグにしよう」


 果ての見えない説教が続く中、グレインもハルナ達に賛同する。


「ウチも行くー」


 そんな中、まさかのアウロラも賛同したのであった。


「アーちゃん! あんたが怒られてるのよ!! そもそもギルマスとしての自覚はあるの? そう言えばこないだも、……」


 説教はまだまだ続きそうなので、グレイン達だけで会議室を出て行く。

 グレイン達がギルドの階段を降りていると、後ろからバタバタと足音が聞こえる。

 アウロラとナタリアが会議室から追いかけてきたのであった。

 小走りのアウロラが慌てた様子でグレイン達を呼び止める。


「ねぇねぇ、君達に話があるのはホントだよ? とりあえず一緒にご飯食べながらでいいから、ちょっとお話しよ? ホントちょっとだけだから!」


「「「まるでナンパ」」」

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