(閑話)メルデルの逐語録②


記入日:ヴィリディス暦四五〇二年十月二十日

記録者:メルデル・■■■■■■

対象者:ストリング・レイシー



メルデル (以下Mとする):よくいらっしゃいました。ワタクシ、本日の言霊治療カウンセリングを担当させて頂きますメルデルと申します。宜しくお願いしますね?


ストリング (以下Sとする):……。


M:今回の面接は、国王様と白魔導士様の推薦により実施されるものです。貴女様が必要でないと感じられているのであれば、そのように対処致しますが、いかがいたしましょうか。


S:……いえ、そんなことは (ジト目のまま周囲を見回す)。それよりも、私を此処へ連れてきた針鼠は何処へ? 私、彼に話があったんですがぁ。


M:会話の途中だったとしたら、申し訳ないことをしてしまいましたね。彼には面接をどたきゃんする前科がありましたので、ワタクシの方から貴女を連れて来てもらうようにお願いさせていただきました。ストリングさんも同じような前科がありますから。


S:……(苦い顔をする)。貴方の言霊治療カウンセリングを嬉々として受ける変人はこの浮島には居ないと思われますがぁ……貴女のサンプル集めではなく、王様と師匠の推薦というのであれば、構いません。それで、何が聞きたいんですぅ?


M:ワタクシの方からはあまり、これと言って聞きだしたい事柄はありません。強いて質問するとすれば……そうですね (眼鏡を指で押し上げる)。今日はよく眠れたでしょうか?


S:……暗に喧嘩売ってますよねぇ。


M:まさか。不愉快にさせてしまったのであれば、謝罪いたします。先日もまさか浮島ごと狙われるとは思わず。ワタクシ、あまり役に立てなかったものですから……。


S:非戦闘員の戯言は聞き飽きました。そんなことどうでもいいですよぅ、そもそも戦えないことの何が悪いって言うんですぅ? 貴女だってこう、粛々とすべき仕事をこなしているじゃあありませんか。どれだけ嫌われようが、自らの研究成果を他者に供給しつづけている。並みの人ができる仕事じゃあないと思いますよぅ。


M:ふふ。お褒めいただき光栄です。


S:私の言葉が褒めているように聞こえるなら、貴女も大概疲れが溜まっていると思われますがぁ (苦笑する)。


M:ふふふ。とはいえ、現場の戦闘に参加した後、連日の騒動で出た負傷者の治療にも尽力するとは。流石は烈火隊の筋肉娘 (水を飲む)。……それで、昨日はよく眠れましたか?


S:やっぱり喧嘩売ってません?


M:まさか。ただ、白魔術を扱うあなたが疲れ目のまま行動していることは珍しいので、何か不調があるのではないかと心配ではありますね。


S:……。(二分沈黙)


M:……。(クライアントから目線を外し、手元の資料を整える)


S:強いて言えば。


M:はい。


S:……強いて言えば、ですよぅ。私は今、とんでもない岐路に立たされています (顔を上げる)。子どものころから今まで、死ぬほど努力して求めてきた立場になる権利を、自ら放棄しようとしていますぅ。


M:……。


S:少なくとも半月前よりは、決断する余裕ができたようには思いますぅ。とはいえ、白魔導士資格を取る目標は変わりませんし、幸い黒魔術の勉強をすることに抵抗はありませんけれど……。


M:……今までのような情熱を持って、取り組むことができるのか。と、心配なさっている?


S:……(少し考えるようにして、首を振る)いいえ。寧ろ、競い合う相手が増えるだけだと思えば苦ではないですよぅ。超える壁が厚いほど燃える質ですのでぇ。


M:ふむ。困っていること自体を楽しんでいるのでしょうか?


S:ですねぇ。というか、そういう慮るような質問は私には通用しないんじゃあありません? メルデルさん。これでも医療従事者ですしぃ、生憎、友達は居るのでぇ。


M:……そのご友人と、何かありました?


S:(固まる)


M:……。(言葉を待つ)


S:……んー、と。ですねぇ……(五十秒沈黙)。ああ……口が滑った……。


M:話したくないことは口にしなくても良いですよ。


S:言われなくてもこんなに個人的なこと、貴女に話すつもりはさらさらないですよぅ……ただ、最近のモヤモヤの原因がはっきりしてしまったのが……そっかあ、そうですよぅ……道理で本調子に戻らないわけですぅ……(呟きながら席を立つ)。


M:手助けが必要ですか?


S:いいえぇ。私がどうにかするべきことだと分かったのでぇ。貴女の手を借りるまでもありません。……ただ、ここに来て大切なことを思い出したのは確かなので……その点については、ありがとうございました。メルデルさん。


M:どういたしまして。では、また。


S:また、なんてそんなぁ。二度とこんな尋問、受けたくもないですよぅ (笑う)。


M:そんなことをおっしゃらず、悩みごとなどあればお越しください。ワタクシは資料室に常駐していますので。それでは、お元気で。


S:余計なお世話ですぅ (頬を膨らませ、退室)。




面接時間:三十分

観察より:終始一貫して意識レベルは高く、自己の認知も安定している様子。受け答えもはっきりできる。禁術の影響、後遺症などは見られなかった。人間関係について悩みを抱えているようだが、観察していた以前よりも思考にゆとりがうまれたことで改善傾向にあるだろう。国に関する不信感などは見られず。赤魔術士への転職も柔軟に受け入れているようす。

 よって、抵抗反応が発生した場合に予定していた処置は必要ないと判断し、予定時間より早く面談を終了とした。彼女自身、精神的に不安定な面がある事は変わらないが、定期的なガス抜きができれば問題ないと結論付ける。

 協力者には、引き続き彼女の心身のバランスを定期報告、調整していただきたい。




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