第7話

『魁斗君、彼女いるの?』

『いないよ。実は、今までいた事も無くてね』



 …昨年の夏、まだ二人が付き合っていなかった頃に交わした会話。蒸すような熱気の籠る放課後の生徒会室で、窓の外を眺めていた魁斗君はフッと笑みを零した。

『告白された事は何回かあるんだけどね、申し訳ないけど全部断ったんだ。中学も高校も生徒数が多かったから、僕の知らない子ばっかりでね。…拒むのもどうなのかなって思ったけど、好きでもないのに受諾する方が相手に対して失礼なんじゃないかなって』

『…そう、だね。じゃあ、魁斗君が告白した事は?』

『あー…実はね、一回だけあるんだけど…恋人がいるって断られちゃって。三年が経った今でも続いてるみたいだから、あの時大人しくしてれば良かったなって。…今はね、二人とも桜楼に進んで、バスケ部MGと弓道部として頑張ってるよ。……元々、人間としての相性が良いんじゃないかな。昔から彼女は他人を支える事が、彼はその上で輝く事が得意だったから。実際、現時点ではその彼も弓道部一年のトップだし』

 遠くを見つめていた彼は、ふと『…そんなに相性の良い人を、僕も大切にしたいって思った事はあるよ』と大人っぽく笑みを零す。


 …ごめんね、魁斗君。私、本当は気付いてたんだ。外を見つめていたその瞳が、一瞬だけ愁いを帯びた事。

 もうこの時には、雅音は魁斗君の心の中にいたんだね。なら…私の付け入る隙なんて、最初から無かったんだ。

 貴女が彼と出会う前から、私は彼が好きだったよ。でも…それも、もうおしまい。



 私…ちゃんと魁斗君の事、諦めるから。



『ねえ、その子ってもしかして…?』

『ん、そうだよ。僕が言ったっていうのは内緒にしてね、桜楼に来てから目も合わせてくれないから』


 有難う、魁斗君。私、貴方を好きになって良かった。

 時々見せてくれる悪戯っぽい笑顔も、忙しいけど楽しいねって笑い合った事も、全部…私の宝物だよ。

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