そして、俺はそんな彼女の恋をプロデュースします

「色んな人にお世話になった、花火大会でしたね…」


「そうですね」


 葉と瑠璃はお茶を飲みながら、数日前の慌ただしい日々を思い出していた。

 瑠璃は葉の右腕をチラリと見る。

 その視線に気づいた葉は笑顔を作り、言葉を紡いだ。


「大丈夫ですよ。ちゃんと治りますから。それに約束したじゃ無いですか!もう二度とあんな無茶はしないって」


 それを聞いた瑠璃は困った顔で笑う。


「わかっています。でも、私のせいで葉さんの右腕がそうなってしまったのも事実です。だから、お姉ちゃんが言っていたけど、『私に出来ること』を考えたいと思います」


「えっ、でも、そんな。俺が勝手にやった事で迷惑かけられ―」


「だ め で す !」


 そう言って、頰を膨らます瑠璃。

 どうやら彼女の『絶対折れないモード』に入ったようだ。それを見て、葉は困った顔で笑った。


『こんな表情…、ちょっと前では見られなかった。俺、見てみたいな…。瑠璃さんのこういう表情を、もっとたくさん』


「あっ、葉さん、笑っている!もう、冗談なんかじゃ無いですよ。絶対に!!お礼しますからね!」


「わかっていますよ。というか、『絶対お礼する!』なんて言葉、初めて聞きました」


 瑠璃はプンスコと怒っているが、そんな彼女が可愛らしくて葉は仕方がなかった。

 そして、笑いすぎて出た、目元の涙を拭って


「わかりました。なら、俺も瑠璃さんの為に、次のプラン考えます。だから、改めて―」



「これからもよろしくお願いします。瑠璃さん」



 そう言って笑顔になる葉を見て、瑠璃は少し赤くなり、コホンと咳払いをして、同じように笑顔を作る。



「はい!よろしくお願いします。葉さん」




 ガチャ


「お邪魔しました」


 瑠璃は葉の自宅のドアを開け、隣の自宅に戻ろうとする。

 その背中を見て葉は思い出す。

 ここで、瑠璃が初めて挨拶した日のことを。



「あっあの!そう言えば名前をまだ聞いていませんでした。俺は『金木葉』って言います。貴方は?」


「私の名前は夢見瑠璃ゆめみるりって言います。よろしくお願いします、葉さん」



『あの時はまさか夢見さん。いや、瑠璃さんと、こんな仲になれるとは思わなかったな…』


『あの日、彼女とここで出会って、

 彼女の秘密を知って

 彼女の夢を叶える手伝いを初めて

 一緒に色んな事を頑張って

 そして、今、その夢は俺の夢になって』


 葉も瑠璃を見送る為に自宅の扉を開ける。

 彼女は美しい黒い髪を揺らして、自宅の扉に向かう。

 葉の部屋の隣に…



『俺の部屋のおとなりにはとても綺麗な美女がいる。

 彼女の夢は素敵な人と恋愛をすること。

 彼女は初めての恋人を作るために奮闘する。

 これからもたくさんの事を…』


「葉さん」


 急に声をかけられて、葉はハッとなり、そして、ドキッとする。

 彼女は少し悪戯っぽく笑顔を作っていた。それは今まで彼が見たこともない表情だった。


「お礼、楽しみにしていて下さい。絶対に葉さんをビックリさせますから!あと、さっき言い忘れた事がもう一つ…」


 えへへ。と笑いは笑い、少し恥ずかしそうに葉に向かって口を開く。



「これからも、私の頑張りを見守って下さい!私の大好きなプロデューサーさん!」



 そう言って笑う、彼女に対して、



「はい!きっとあなたに素敵な王子様を紹介します!」



 と笑う。

 そして、彼は改めて誓う。



『そして、俺はそんな彼女の恋をプロデュースします』






 ピコン


 瑠璃を見送った彼はスマホから電子音が聞こえたので、ポケットに手を入れそれをチェックする。

 彼はその表示を見て驚いた。


 姉から連絡が来ていたのだ。



『久しぶりね。葉。

 そっちはどう?

 あと、相談。読んだわ。

 私の方は何とか予定が片付いて、これからその話、ちゃんと聞けると思うわ』



『姉貴。ずっと既読がつかなかったから、無視されていると思ったけど、良かった。読んでくれているみたいだ』


 葉は安心した後に、続くメッセージを読んで、


「えぇぇぇー!!」


 と大声をあげる。


 ガチャ!


「どうかしました、葉さん!?」


 突然、彼が大きい声をあげるので、瑠璃も驚いて、扉を開けて彼の様子を確認する。

 彼はスマホを持ちながら、プルプル震えていた。


「…きます」


 葉の言葉がよく聞こえなかった瑠璃は


「えっ?」


 と言って、聞き返すと、彼は何か恐ろしいものがこれから来るような表情をして、再び言葉を紡いだ。




「姉が…、この家にきます」


 金木葉と夢見瑠璃の恋愛奮闘記はこれからも、色んなドタバタに巻き込まれていく。

 そんな気が彼にはしていた。

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