「「二日酔いぃ!?」」

「「二日酔いぃ!?」」


 葉と瑠璃は同じ言葉を同じタイミングでスマホに向かって叫んだ。

 スマホから帰ってきたのは、真珠のあっけらかんとした声だった。


『そっ。瑠璃の嫌悪感のエナジードレインは威力が強力だから、最初は不安になるけど、その実、ぶっ倒れた時の症状は一気飲みして倒れた時のアホと全く一緒。しかも、寝込んだ時の状態は重度の二日酔いそのものよ』


 真珠の説明は全くその通りだった。

 嫌悪感のエナジードレインを受けた、タケシは最初、とても酷い症状に見えたが、診察の結果、下されたのは一気飲みによる重度の二日酔い。彼は現在、激痛に悩まされながらベッドに横たわっているが、祭りでの行いが悪かった事もあり、病院で看護婦や医者からゴミを見るような冷たい視線を送られながら、入院生活をしていた。もちろん、勝の張り手を受けた他の男達も同じ病室で、彼と同じ扱いを受けていた。


「じゃあ、私のせいであの人に後遺症が残るほどの危害は加えていなかったのですね…。良かったぁ」


「瑠璃さん」


 瑠璃は心底、安心した表情をし、彼女の不安が無くなった事を知って葉もホッ。とする。

 そして、笑顔をつくり、


「でも、俺は病院でそのまま症状悪化して、嘔吐や下痢が止まらなくなるとか、内臓に謎の痛みが走るとか、瑠璃さんの関係ないところでもっともっーと、あのアホ達に地獄を見て欲しいと思います!」


「葉さん!?それ、本当に死―」


『あら、奇遇ね、葉くん。私も全く同じ事を考えていたわ!』


「お姉ちゃんまで!?」


 葉は笑顔のまま、悪魔みたいな事を言い、真珠もとても楽しそうにその意見に同調する。

 瑠璃は葉からスマホへ、首をぶんぶん振ってつっこんだ為、少し首が痛くなっていた。



『というのはまぁ、小匙程度の冗談だけど…』


「えっ?お姉ちゃん。それほぼ冗談では無いような…」


『実際、瑠璃の祖母…私達のおばあちゃんの残した書類を見ると、その症状が悪化したという記録は残っていなかったわ。それにね。人を殺めるほどの能力があるなら、瑠璃には酷だけど…、私達が全力で止めたわ。妹を人殺しにさせたい家族なんていないわよ』


 それを聞いて、葉も無言で頷く。

 瑠璃は何も言えず、ただ、困った顔をしていた。


『まぁ、おばあちゃんがその能力のせいで苦労した事は知っているけど、人を殺めたなんて話は聞いたこと無いわ。つまり、悪化しても二日酔いがもっと強力になるっていうのが私の見解。それに今回は…』


 真珠は一呼吸おいて、殺意を込めた声で言った。


『あの糞男達が瑠璃にしようとしていた事を考えると、ぬるいくらいよ…』


「お姉ちゃん…」


 あまりにも、低い声で放つ真珠の言葉に瑠璃も冷や汗をかくが、


『同感です。むしろ、一週間程度の重い二日酔いで済んだ事を、瑠璃さんに咽び泣いて感謝すべきですね…』


「葉…さん?」


 スマホ越しの真珠と全く同じ、いや、それ以上の殺意が見える、葉のオーラに瑠璃は少し涙目で怯え始める。


『いやー、葉くん!気が合うわね!どう今夜あたり飲みに言って、瑠璃について語り合わない?ついで、ラブ○行かない?』


「良いですね!俺も真珠さんに会ってみたいです!でも、すいません。明日は友達と予定があるので、また次回で!あと、ラブ○はいきません!」


『もうー、いけずぅー』


「ハハハ…」


 憤怒と歓喜のスイッチがコロコロ変わるこの二人に対して、瑠璃は少しだけ怖くなっていた。



『コホン。まぁ、今回は色々あったけど瑠璃。あなたが無事で良かった。今後は気をつけなさい。私だって、こんな言い方だけど、あなたの心配も、あなたの夢の応援も両方しなければならないから不安が尽きないのよ』


 あくまでも明るく振る舞う真珠に、葉と瑠璃はお互い目を合わせ、少し困った顔で笑い合った。


「うん。ありがとう、お姉ちゃん。私、頑張るね。次は絶対に良い報告できるようにするね」


『えぇ、期待しているわ。あと、葉くん。大事な妹を、怪我をしてまで守ってくれて、本当に、本当にありがとう。いつか、ちゃんとお礼させてね』


「えっ、いや。そんな…」


 葉は左手で頰を書きながら照れる。

 彼の右腕は今も包帯でグルグル巻きになっており、当面は安静にしている様にと、厳重注意された。

 瑠璃は痛々しい彼の右腕を見て、申し訳なさそうな顔をする。


『瑠璃。あなたもちゃんとそこの王子様にお礼言っておくのよ。あと、申し訳ないって思うばかりでは無くて、彼の為に出来ること。やってあげなさい』


『うん。わかった。色々ありがとう』


 それを聞いて、スマホから、ふふ。という笑い声が聞こえ、


『じゃあ、またね。二人とも頑張って!』


 ピッ


 という電子音と共に、真珠との通話が切れた。


 葉と瑠璃は、葉の部屋で少しの間、沈黙していたが、


「あの…、瑠璃さん」

「あの…、葉さん」


 二人同じタイミングで声をかけ、そして、クスッと笑う。


「瑠璃さん、俺が今、何考えているか、わかります?」


「はい。何となく…ですけど。葉さんもその顔、これから私がしたい事わかっているみたいですね?」


 二人はそう言って、せーの。と言って、声を合わせ



「「お茶、飲みましょう!」」



 全く一緒の台詞を言って、笑い合った。

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