二人で叶える夢だから…

順調、なのかな…

「順調、なのかな…」


 葉は『瑠璃さんのプリンセスプラン』と書かれた紙をテーブルの上に置いて睨めっこしている。

 最近の彼の休日の朝は、だいたいこの睨めっこをしていると終わっていた。


 その紙には瑠璃のこれまでのプロデュースの成果が書いてあった。


・手をつなぐ ◎

・筋トレをする ○

・デートをする ○


『まぁ、俺のクライアントは色んな意味で誰もが振り向く美女にして、恋愛経験ゼロ、どころか男性との会話すらほとんどない超おぼこ娘さん。少しずつでも進んでいるのはオッケーだが…』


「俺のこのプログラムの進め方で、瑠璃さんの恋人作りの手伝いできているのかなぁ…」


 彼は悩んでいた。瑠璃自身は前向きにこのプログラムに取り組んでおり、現に今も二人で筋トレに行ったり、買い物に行ったり出来るようにはなってきた。

 しかし、それはあくまで『葉と一緒の時のみ』できている事だった。

 葉自身はそれでも瑠璃に頼られるのは嬉しいし、楽しい時間は過ごせる。でも、それが瑠璃の為になっているか…というと自信が持てなかった。


『瑠璃さんは黙ってプログラムを進めてくれているが、いずれは瑠璃さんが一人で動く事や、チャレンジしなければならない問題も出でくる』


『ずっと、俺がついていてあげる事は出来ないのだから…』


 はぁ。と葉はため息をつく。

 彼は時計を見る。もう少しでバイトの時間だという事を思い出し、彼は立ち上がって着替えようとした時、ふと、湖太郎の言葉を思い出した。


『そうかぁ?一人いるだろ。お前の近くに容姿端麗、文武両道。しかも、教え上手の才女が。彼女に聞いてみるのは?』


 葉はスマホを見つめる。

 彼の頭の中に一人の女性の姿が浮かんだ。

 彼を一時とは言え王子様に仕上げ、そして、今なお自身のスキルアップ、外見のグレードアップに努力を怠らない一人の淑女を。


『俺一人では無理でも…。あの人なら、良い知恵を貸してくれるかな…』


 葉はスマホのアプリを開く。チャット形式でメッセージを送るアプリの中から一人の女性のアイコンを開き、そこにダメ元でメッセージを送った。


『久しぶり。そっちは元気か?』

『あと、忙しいところ悪いけど、ちょっと相談に乗ってくれないか?』


『…恋愛関係の事なんだ』


 彼がメッセージを送った先の人物名にはこう書いてあった。


『姉貴』と。




「そっかー、デート大成功かー。良かったなぁー」


「うんうん、遂に葉くんにも青春が来たね。僕からしたら君みたいな良い子、むしろ遅いくらいだけど」


「あのー、湖太郎?マスター?俺たちはデートには行ったけど、恋人にはなってないぞ…」


 バイト先の喫茶店で先日の報告を二人にすると、彼らは一気にお祝いムードになった。

 葉はため息をつき、ジト目でそれを見ていた。


「いや、でもモール店でデートとかもう恋愛ゲやエロゲなら告白イベント手前だぞ?あとは、お前か瑠璃さんが愛の言葉を伝えればもうそれゴールだろ?」


「俺たちの関係をゲームに当てはめんな!てか、お前、なんでエロゲとかやっているんだ?彼女いるだろ!」


「えっ?俺は女の子と仲良くなる為ならどんな教材も積極的に使うぞ?ちなみに、俺のオススメはコレだ!とにかくストーリーが泣ける!特にこのヒロインの話なんかティッシュ一箱使―」


「もう、良いよ!どんだけ残念なイケメンだ!お前は!?」


 葉はいつもの様に湖太郎と漫才をし、マスターはそれを微笑ましい顔で見て、コーヒーを淹れる。

 どんな時でも彼らはいつもと変わらない関係を築いてくれていた。



「で、今後はどうする?瑠璃さんの恋愛プロデュース」


「うーん、順調と言えばそうだし、だからと言ってこのペースで良いのかなんとも言えない…」


 葉は正直に自分の気持ちを吐露する。

 湖太郎はコーヒーを一口飲んだ後、腕組みしながら椅子に背を預ける。


「うーん、俺も他人の恋の相談は受けても、ゼロから女の子をプリンセスにして、他人とくっつけるなんてなんてした事無いからなぁ。わかる範囲でしか手助けできん」


「僕も湖太郎くんと似たようなものさ。ごめんね、力になれなくて」


「いや、謝る事じゃないですよ。むしろ二人には意見を貰えるだけでありがたいというか」


 そう言って、葉はズボンのポケットからスマホをチラッと出し、画面を確認する。彼はある人からの連絡がない事を知ると、はぁ。と小さくため息をついた。


「実をいうと、湖太郎の言っていた人に相談してみた」


「マジか!あの人が助けてくれるなら、百人力だろ!で、何て言っていた?」


「…まだ、連絡はない。何だかんだあの人、忙しいから」


「そっか」


 葉はもちろんの事、湖太郎も少し残念そうだった。

 そんな二人の前に二杯目のコーヒーが置かれる。


「まぁ、でも、葉くんがお姉さんに助けを求められただけでも前進できたじゃないか。後は連絡を待ってその間にできる事をやれば良いさ」


「マスター…」


 マスターは優しく微笑む。

 葉は二杯目のコーヒーを口にする。

 心まであったかくなる様な気持ちだった。


「そう…だよな。今はペースとか考えないで、やれる事をやろう。進むしか、ないのだから」


「だな」


 そう言って湖太郎も二杯目のコーヒーを口にした時にふと、何かを思い出した。


「そう言えば、葉。お前、花火大会行くの?」


「あー、そんなイベントもあったな。うーん、一昨年、去年と言ってないし…一緒に行く相手も…」


 と言いかけて、葉の頭にが浮かぶ。

 湖太郎とマスターを見るとニヤニヤしながらこちらを見ていた。


「…お前、わかっていて言ったな?」


「まーな。むしろすぐに気がつかないお前が悪い。で、本題だ。俺は当然、彼女と行く予定だが、もし良かったらダブルデートしないか?」


「ダブルデート?」


 葉は湖太郎の狙いがよくわからず、怪訝そうな顔をする。

 湖太郎はその反応を見て、楽しそうな顔をして答えた。


「いや、なに。瑠璃さんの男性恐怖症を治す為にも多くの男と会話をした方が良いだろ?とは言うものの、見知らぬ男性をぶつけてもより苦手意識が芽生える。なら、葉の親友でかつ、彼女もいる俺なら良い意味で。それなら、俺と会話する事は瑠璃さんの経験値アップにつながる。どうだ、この作戦?」


「ふむ。なるほど。一理ある」


「だろ?それに花火大会なんて、カップルの巣窟じゃん?なら、瑠璃さんのカップル見学にもなる。な、俺の案、天才的だろ?一石何鳥よ?これ」


『こういう時のコイツの頭の回り方って本当に早いよな。でも、まぁ、花火大会なら瑠璃さんの私服、もしかしたら、浴衣なんて見る事ができたら…』


『マジで、可愛いだろうなぁ…』


 と葉がそこまで妄想して、ハッとなる。

 そして、ジト目で湖太郎を見た。


「さてはお前、噂の瑠璃さん見てみたいだけだな?」


「あっ、バレた?」


 まったく…と葉は苦笑した

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