嫌いに…なれなかった?
「もう、葉さん。酷いです。まさか、全部見ていたなんて。せめて、少しくらい約束守って下さい!」
瑠璃はずっとこの調子だった。頰を軽く膨らませたりしながら、プンスコと怒っている。
「でも、瑠璃さんの声に驚いたジェットも、最後は慰めにきてくれたから良いじゃないですか」
「そう!あの時のジェット可愛らしかったですよね!私を心配して手をペロペロ舐めてくれる所なんて、もう、最高で…って、誤魔化さないでください!もう」
また、むぅ。としながら、プンプンする瑠璃を見て、葉はクスクス笑う。
『今日の瑠璃さん、いつもと違ってコロコロ表情変わってなんか良いな…。きっと真珠さんと話している時はこんな感じなのかな?』
葉が微笑んでいると、もう、ほんとに怒りますよ!とまた、瑠璃がむぅ。とする。
「いや、ほんとにごめんなさい。でも、ジェットほんとに良い子ですよね。人見知りだけど、仲良くなるとどんどん懐いてくれるし」
「あっ、葉さんもそう思います?大家さんの躾が良いっていうのもあるかもしれませんが、あの子はきっともともと優しい子ですよ!初めて私と会った時も―」
瑠璃は嬉しそうに美世とジェットとの出会いを語る。
葉はそんな瑠璃の話を笑顔で聞いていた。
「―だから、私、あの子の事大好きです」
「俺もそうです。良い子ですよね、ジェット!」
『まさか、瑠璃さんとこんな共通点ができるとは。姉貴が言っていたけど、犬と猫好きの子とは話題欠かないってほんとだな…。ジェット、姿が見えなくても、俺を助けてくれるなんて、とっても可愛い子!』
葉は頭の中で尻尾をブンブン振りながら、おすわりをして、ワンッと吠えている愛らしい黒柴のワンコにお礼を言う。
「でも、瑠璃さんがあそこまで犬好きだと知りませんでした。ジェットも喜んでいましたし、瑠璃さん動物に好かれるさい―」
と言いかけて葉は黙る。話をしている最中に彼女のサキュバス能力の事を思い出したからだ。
彼の様子を見て、瑠璃は微笑む。
「良いですよ。葉さん。気を使って頂いて、ありがとうございます。そうですね。ほんとは動物大好きです。でも…、オスのワンちゃんとかはやっぱりまだ怖いです」
「すいません…」
葉は自分の不用意な発言を後悔する。瑠璃は困った顔をしながら、笑って話す。
「葉さんが気にする事では無いですよ。むしろ、こんなに面倒な能力を持った私の恋愛プロデューサーになってくれて、ありがとうございます。それに、葉さんには言っちゃいますけど、私、この能力で困る事たくさんあるけど、どうしても、嫌いには…なれませんでした」
「嫌いに…なれなかった?」
葉は首を傾げる。
彼女は葉を見て、照れながらも笑顔で答えた。
「この能力。大好きなおばあちゃんと同じものだったからです」
「瑠璃さんのお祖母様と一緒…」
「はい。私、おばあちゃん子だったんですよ。子供の頃は両親も、もちろんお姉ちゃんも大好きだったけど、一番、長く一緒にいたのは祖母でした」
そう語る瑠璃の顔は嬉しそうにでも、少し寂しそうな表情だった。
その顔を見て、葉は瑠璃の祖母がもうこの世界にはおらず、星になって彼女を見守っているのだと感じた。
「今はもう亡くなって…しまいましたが、おばあちゃんからはほんとにたくさんの事やお話を教えて貰いました。その中でも特に好きだったのが、お爺ちゃんとの馴れ初めの事です」
瑠璃は本当に祖母が大好きだったのだろう。と葉は思った。
その証拠に彼女の目、少しずつ潤んできていた。
彼はそんな彼女の話をただ、ただ真剣に聞いていた。
「祖母も私と一緒の能力に目覚めたせいでたくさん、本当に、たくさん苦労したみたいです。あまりにも辛くて、途中で人と接する事自体が嫌になって、誰も知らない土地でずっと一人で暮らそうとしていたみたいです。でも、そんな場所でも祖父は祖母を一生懸命探して、見つけて、そして、二人は結ばれたって言っていました。祖父は私が生まれる前に亡くなってしまったけど、祖父の事を語る祖母は本当に乙女みたいでした」
瑠璃は遂に一筋、涙を流してしまう。それでも、彼女は話を止めようとはしなかった。
「だから、私、その話を聞いた時から私も、私もそういう人に会えたらなって。こんな能力があっても頑張って乗り越えて、きっと素敵な出会いができたら良いなって、思ってしまって、ここまで来ちゃいました」
瑠璃は笑った。涙目で、笑っていた。彼女にとって祖母はそういう存在なのだろう。思い出すと思い出が溢れて、嬉しくて、そして、いなくなって寂しい。
だからこそ、そんな大好きな人と同じ共通点であるこの能力を本気で憎めなかった。
例えそれが自分の夢の大きな障害でも
「って、まだまだ祖母と比べると全然、頑張れていませんが。えへへ。あっ、ごめんなさい…。お祖母ちゃんの話をするといつもこんな感じになって…」
サッ…
葉は何も言わずに彼女にポケットティッシュを出した。瑠璃はそれを受け取って、葉を見る。
彼は優しい顔で微笑んでいた。
「大丈夫です。瑠璃さんは頑張っていますよ。今だって外に出て、新しい場所に行こうとしているじゃないですか。信じましょう。尊敬する大好きな人と同じように、きっと、素敵な恋ができる事を」
「俺も全力で手伝いますから!」
それを聞いた瑠璃は少し驚いた後、目元を拭いながら、花の咲いた様な笑顔を見せる。
「はい!よろしくお願いします!」
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