美味しいお魚屋さん!教えて下さい!
葉は少し戸惑っていた。
さっき別れたばかりなのに、こんなに近くで再開。
しかし、彼女が出てきた場所は公園のトイレ。
「なんであんな所に?」なんて質問は変態以外の何もでもない。
葉が何か他の会話のきっかけを作ろうと考えていると、瑠璃の服にある変化があることに気づく。
白いワイシャツに小さな赤い染みがついていた。
「えっ、夢見さん。そのワイシャツどうしたんですか?」
彼女は自分の胸元の赤い染みを見て、あぁ、これですね…。と呟いた。
「さっき木の枝が何かで引っ掛けてしまって…。指先を怪我しまいました。ダメですね。せっかく葉さんから幸運のお守りを貰ったのに…」
彼女は困った顔をしながら、先ほどの葉っぱを右手の中指と親指でくるくるする。
よく見ると人差し指から僅かに赤い血が出でいた。
「まだ、血が出ていますよ!大丈夫ですか?」
「あれ、さっきお手洗い行った時に止血したのに…。もう一回、止めてきますね」
そう言って彼女が振り返って、公園のトイレに行こうとした時、葉はとっさに彼女の腕を掴んでいた。
えっ?っと、彼女は少し驚く。
葉は無言で彼女の血が出ている指先に自分のハンカチを結び、止血した。
「バイ菌でも入ったら大変です。俺のハンカチなんて嫌かもしれないけど…。公衆トイレの紙よりは清潔…だと思います」
これが金木葉という人物だった。
彼は幼い時からずっと『困っている人がいたら、できる範囲で手助けする』という優しさをもっている。
それは女の人のみならず、子供、老人、男性、はては動物でも変わらない。
この葉の人柄が不思議と他人と彼を強く結ぶきっかけになったりする。
そして、本人はそれを得意げに語ることは無く、他人に言われても、えっ?当たり前じゃ無いの?と本気で思っているのも、彼が評価される理由でもあった。
瑠璃は自分の指先に巻かれた、ハンカチをじっと見る。
『やっぱり、嫌だよな…男のハンカチとか…。でも、このままにしておくのも良くない気がするし…』
こういう時に王子様がポンッと出せないのが、彼の欠点でもあった。
葉は瑠璃に言う。
「やっぱり、気持ち悪いですよね。男のハンカチなんて、コンビニで絆創膏買ってきま―」
「いっ、いえ。ありがとう…ございます」
瑠璃の声はさっきより少し小さくなっていた。
そして、彼女はハンカチの巻かれた指を大事そうに抱きしめて言った。
「あ、あの、洗って返します!その、血が落ちるかわからないけど…」
「良いですよ、そんな。差し上げます。女の子の止血に使ったハンカチをもっていたら、それこそ俺は変態ですよ」
葉は少し困りながらも笑顔で言う。
「じゃあ!その、大事にします…。ありがとうございます」
「そんな、良いのに…」
『瑠璃さん、やっぱり良い人だな。さっきの月長さんの話にも出て来たけど、悪い人にジェットは懐かないよ…。綺麗で大人びていても、子供っぽい所もある。そして、優しい人。俺のこの人の結構すー』
と思いかけて、葉は思考を止める。
『だから、駄目だって!夢見さんにはこれから素敵な出会いがあるのだから!』
俺が邪魔しちゃ駄目だろ…と葉は思った。
瑠璃はしばらく葉から貰ったハンカチをじっと見ていたが、突然、ハッと何かを思い出し、コホンと咳払いして葉に問いかけた。
「そう言えば、葉さんはどうしてこちらに?今日は学校って言っていませんでした?」
瑠璃はいつもの大人っぽい雰囲気に戻っていた。
葉は苦笑しながら答える。
「実を言うと講義まで時間があって、どこかで時間を潰そうとしていました」
あぁ、なるほど。と瑠璃は納得する。
「良かった。学校をサボって遊び歩いている不良さんかと思いました」
「あっ、ひどい。でも、学校行かず遊んでそうとはよく言われます。結構、真面目に授業受けているタイプなのですが…」
ふふっ。と瑠璃は笑う。
「冗談です。葉さんはそんな人じゃ無いことくらいお話してきたから分かりますよ」
突然、瑠璃からそんな事を言われて葉は少し照れる。
こうやって人の良い所に対して素直な感想を述べる所は葉の親しい人に似ていたからだ。
彼は照れ隠しをしたくて、彼女に質問する。
「そう言えば夢見さん、この間、俺に聞きたいことがあるって言っていましたよね?アレの内容、教えて貰えますか?」
彼女はあぁ。と答えた後、申し訳なそうに葉に説明した。
「実は場所を知っていたら、教えて欲しい所があって…。でも、葉さん学校ありますよね?」
「あぁ、それなら午後の講義だから時間はまだありますよ。そんなに遠く無い場所だったらもし良かったら道案内しますけど?」
「ほんとですか!じゃあお言葉に甘えさせて頂きます。知りたかったところは…」
『何だろう?お洒落な喫茶店とかお菓子屋さんとかかな…俺に答えられる店なら良いけど』
葉が悩んでいると、瑠璃は目をキラキラさせながら言う。
「美味しいお魚屋さん!教えて下さい!」
その内容は葉の得意分野だった。
まさかの内容に葉はコケそうになった。
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