秘密の花園 4

「なぜ……」


 そう問いかけた私の言葉を、ユーカナの唇が塞ぐ。そのまま私たちは、ベッドの上に倒れこんだ。


「なぜ、どうして。それは私には分かりません。でも、現実にそうなのですわ」


 ユーカナの手が、私のシャツのボタンを、一つ外す。


「貴女はアイサを『妹』と言った。アイサの両親は」

「私たち姉妹に、親はいません」

「いないって……性染色体が子供へと受け継がれていくのなら、それを持った親がいるは……」

「いないのです」


 私が全てを言い終わらない内に、ユーカナが言葉をかぶせた。その間にも、ひとつ、またひとつと彼女は私のシャツのボタンを外していく。

 

「それでは、まるで貴女方が……」


 全てを外し終えると、ユーカナは私の腹から胸へと手を滑らせ、シャツを脱がせた。私の胸に、唇を寄せる。そして深く息を吸い込んだ。


「ええ、そうですの」


 ユーカナが上目遣いに私を見る。口元に、切なくも魅惑的な笑みを浮かべた。


「私たちが、『始まり』なのですわ」


 彼女が身を起こす。甘酸っぱい熟れた果実の匂いと、体液が放つあの生々しい臭いが混ざった、むせるほど濃いにおいが私を包み込む。

 スカートの左右の裾を手でつかむと、ユーカナはそれをゆっくりと持ち上げた。


「この、体の」


 固くなり前に突き出た突起と、下半身から下に突き出した、粘液にまみれた筒状の突起。グロテスクと形容すべきかもしれない二つの器官が、私の目の前にさらされる。


「始まり……始まりとは、何ですか」

「言葉通りですわ。これも、これも」


 左手でスカートを持ち上げたまま、ユーカナはそのひとつひとつを右手で取り、私に見せる。


「貴方しか感じない、この匂いも」


 そして、手についた粘液を、私の顔へと近づけた。


「それでは、分からない。アイサは、貴女方は、誰の子なんですか。どうやって生まれたのですか」

「さあ、私と、繋がりましょう」


 ユーカナの両手が、私のズボンへと伸びる。しかし私は、ただユーカナの挙動をじっと見つめるしかできなかった。


 始まり? どうやって……『始まる』というのだ?


 めぐる思考が形にならないまま、霞のように消えていく。

 気が付けば、全てをむき出しにされた私の下半身に、ユーカナがまたがっていた。


「一つに」


 潤んだ瞳で私を見つめながら、ユーカナがゆっくりと腰を下ろしていく。

 絡みつくような感覚が走った、その瞬間、大きく音がして部屋の扉が開かれた。


 入り口に、アイサが立っている。驚いて振り返ったユーカナを、アイサは怒りとも悲しみともつかない表情で睨んでいた。


「そこはアイサの居場所。アナタは出て行って」


※ ※


「ゆっくり、どうぞ」


 そう告げると、ユーカナは私とアイサを部屋に残して出て行った。あの優雅な微笑みを浮かべて。


 彼女が立ち上がった時に、「まだ聞きたいことが」と引き留めようとしたのだが、アイサが私に抱き着いて来たので、それ以上のことは聞けなかった。 

 ただ、彼女は体を離すときに、「『マザー』に、お会いなさい」と私に向けて小さくつぶやいた。


 誰のことなのか。


 それを考えることを、しかし、アイサは許してくれなかった。


「アイサの居場所は、ヤナだけなの」

「すまない、そういうつもりでユーカナさんと一緒にいたんじゃ」

「だから、ヤナはアイサだけの居場所でいて」


 私に強くしがみつきながら、アイサが切なく訴えかける。


「ああ、もちろん」


 私がそう答えるや否や、アイサは私が戸惑うのも気にせず、夜まで私の身体を求め続けた。

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