性別Z 2
その微笑みは、何かに怯えるが故にほとんど誰とも口を利かず、助けを求めて縋るような視線を送っていたあの少女が、時折見せた屈託のない笑み……では、なかった。
「ヤナは、アイサをずっと守ってくれるんでしょう?」
アイサが私の方へと手を伸ばす。指先が、私の鼻先に触れると、あの匂いが漂い始め、部屋を満たしていった。
むせるほどの甘酸っぱい熟れた果実の匂いに、生々しいがそれでいて嗅いでみたくなるような臭いが混ざった、そんな、カミアンにしか分からない、匂い。
「ヤナとアイサ、人間じゃない者同士、だね」
微笑みの中にひそむ強烈な拘束の鉤爪が、私を捕らえ、押さえつける。魅力的、魅惑的、そんな形容とは正反対の、ただ、ただ、私に恐怖を植え付ける微笑みだった。
それは、捨てられる恐怖、失う恐怖、などではない。私は誤解をしていたのだ。私の行為に、アイサが愛想をつかすのではないか、失望するのではないか。アイサを失うのではないか……そんな恐怖と戦っていたさっきまでの私が、滑稽に思えた。
もう、アイサからは逃げられない。アイサが、それを許さない。
「一つに、なろ?」
その言葉に抗うことに、理由も無く、ただ恐怖だけを感じた。
「アイサと……つながろ?」
顔から下へ手を降ろしていき、シャツのボタンに指を掛ける。
「アイサ……」
「なあに、ヤナ」
アイサの手が、ボタンを一つ、また一つと外していった。
「今は……」
「ダメなの」
アイサは、微笑みを浮かべたままボタンの全てを外し終わると、次に私のシャツに手を掛ける。もう部屋の中は、アイサの匂いしかしなかった。
「今じゃなきゃ、ダメなの」
アイサの手の動きに、自然と自分の動きを合わせている。私の中の本能をアイサに操られているかのようだった。
「だって、同じ人間じゃない者同士なのに、ヤナだけ『カミアン』なのは、ずるいでしょ?」
私が着ていた服をすべて脱がし終えると、アイサは私をベッドへと導き、トンと胸を押した。そして、空色のフレアスカートの中から履いていた下着を脱ぎ捨てる。そして、裾を両手で持ちながら、あおむけに横たわった私の下半身に、またがった。
息苦しいほどの匂いで、私の肺と頭の中は満たされている。
「だから、アイサを、『ヤナ』にして」
何かを言おうとして、何も声にならないまま、口だけが動いていた。そんな私を見て、アイサが再び笑みを浮かべる。
隠されたスカートの中で、粘液にまみれた何かが、私の下半身に押し当てられた。その何かが、私に吸い付く。
「アイサが『何者』なのか、迷わなくていいように、アイサを『ヤナ』にして」
アイサは、一瞬眉をひそめたが、再び口元に笑みを浮かべると、そのまま静かに目を閉じた。
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