愛すべき理由 7

 物理的に『一つになる』という方法を、私はオーラルセックスにしか見出すことができなかった。私の口の中へと分泌されていく強烈な匂いを放つ粘液を、ただ夢中で喉の奥へと流し込んでいく。


「やめて、汚いよ」


 そう言って私の頭を押さえたアイサを無視し、私はそのままその行為を続けた。アイサが私を制止する声が、嗚咽とも喘ぎとも区別のつかないものへと変わる。

 と、突然、アイサが声を上げて泣き始めた。そこで私は我に返り、その恍惚とした行為を中断する。そして、己の罪深さにさいなまれながら、慌てて立ち上がった。

 僅かに顔を上げて涙を流し続けるアイサを、両手で強く抱きしめる。


「ごめん、アイサ、ごめん……」


 見られたくなかったはずのものを、このような形で強引に見せさせたことで、アイサを傷つけてしまった。そう思い、謝罪の言葉を口にする。

 しかしアイサは、私の体を両手で抱きしめ返すと、何度も何度も首を振った。


「違う、違うの、ヤナ。違うの。ごめんなさい、ごめんなさい、アイサ、女の子じゃなくてごめんなさい。こんなので、ごめんなさい……ヤナ……アイサを許して……」


 両手をだらんと垂らし、力なく、私の腕の中で、ただ、ただ、涙を流し続けるアイサ。口にする言葉が、次第に不明瞭な意味をなさない音へと変わっていった。

 生まれついた体を謝罪し、慈悲を乞う。これほど、救われることのない行為があるだろうか。そこに、今までアイサが見せたことのなかった、『原罪』への思いが垣間見えた。

 そんなアイサを、どうしようもなく愛しく感じる……忘れていた、『愛』という感情が、私の心の奥底、無意識の深淵から湧き上がってくるのが分かった。


 理由。理由が必要だ。私がこの子を愛する理由が。

 理由なき行為は、やがて理由なく終わる。

 だから、決して消えることのない、私がアイサを愛する理由が必要なのだ。

 ……私はなぜ、アイサを愛するのだ?


 その答えは、私の腕の中で震えて止まない、この確かな質量が教えてくれた。


 この子が……ここに存在するから。


「アイサ、君を愛してる」


 アイサの肩をつかみ、まっすぐ見つめる。涙にぬれた暗赤色の瞳が、しばらく虚ろに泳いだ後、ようやく私の目を捉える。


「でもそれは、君が女の子かどうかとか、そんな理由じゃない」


 手で、瞳を濡らす涙をぬぐってあげた。


「君が、君だから。アイサが、アイサだから。アイサが、この姿で私の目の前にいるから」

「ヤナ……」


 アイサがパッと目を見開き、私を見つめる。


「ありのままのアイサが好きだ。君の髪も、その瞳も、そしてその身体も。そのままのアイサだから、君が好きだ。だから、謝ったりしないで」


 私はそっと、優しく、アイサの髪を撫でた。

 と、再びアイサの瞳から、幾粒もの涙がこぼれ落ちる。そのまま、ただアイサの髪を撫で続けていた私に向けて、アイサが言葉を紡ぎ始めた。


「ずっと……ずっと、こんな身体が嫌だったの。誰かに見られるんじゃないかって、そんなことばかり考えて学校に行くのが嫌だったの」

「ああ」

「死のうって、思った時もあったの」

「ああ」


 アイサが私の顔に手を伸ばす。そして私の頬に、ゆっくりと触れた。


「ヤナに会えて、よかった」

「ああ」

「こんな身体でも、生きてて、よかった」


 アイサが私の顔を引き寄せる。唇を合わせると、アイサの放つ匂いがさらに強くなり、二人が抱き合う浴室いっぱいに広がっていった。

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