俺はもうちょっと上手に生きたい
ひろ法師
俺はもうちょっと上手に生きたい
ふたりで見上げた空を思い出した。初めてデートに行った秋の夜。寒いけど、二人で歩くだけでどこか温かかったのを覚えてる。
あれから一年と少しが経ったけど俺たちの関係は進んでいるのか、進んでいないのかよくわからない。なんせ俺はヘタレな男だったら。
文芸部と演劇部合同のクリスマスの飲み会が終わった後、俺たち二人はアパートに帰るところだった。
外は寒いけど、晴れているようだ。
俺は俯いて歩いていた。
「ねえ……やっぱり冬の夜って星奇麗だよね」
「うん……」
「空見てる?」
「え?」
横から彼女の声が入る。俺は思わず顔を上げると、右ほおに軽く爪先で押すような圧を感じた。
「こーら、下向いてるとこけるよ?」
「え……ご、ごめん」
体がなぜかボワっと熱くなる。それを見た彼女の口元が少し緩んだ。
「ふふっ。無理してお酒飲むことないじゃない。下戸なんでしょ?」
「……そうかも。でも、君もお酒苦手なの? 飲んでないみたいだけど」
「まあね。私、味が好きじゃないから」
「まさか……飲めないの?」
「……」
にやけながら彼女に顔を向けると、彼女の顔が少し赤くなる。酔っていないのに。
「とーにーかーくっ、あなたは無理にカッコつけなくていいの。出来ないことは出来ないって言うのも大人としては必要だよ?」
この人、もっともらしい事言ってるよ。
「まあ、楽しかったしいいじゃん」
適当にはぐらかす。
「ずっと寝てたくせに。やっぱり飲む必要ないじゃない」
心臓にナイフが突き立てられたように、俺は立ちすくんだ。
おっしゃる通りです。
アルコールの周りが早かったのか俺はすぐに気分が悪くなり、ずっと横になっていた。帰り際に文芸部の部長に呆れられまくっていた。
「やっぱり中学から変わってないじゃん」
「流石にその頃よりは大人になったと思うけど?」
「成長してない! 無理にカッコつけるところは」
やっぱり彼女は手厳しい。さすが元学級委員長。
だけど、彼女と仲良くなろうと努力してきたつもりだ。
「ねえ、夜空見てみようよ」
彼女に言われ、空を見上げる。藍色に澄んだ夜空に無数の星々が光り輝いていた。
俺らが進むべき道を明るく照らすように。
「やっぱり綺麗だよね」
「うん……」
そして俺はこっそりと彼女の左手に手を差し伸べ、握った。
「きゃっ……どうしたの? いきなり」
「手、繋いだ方がいいかなって」
「……まあ、いいけど」
彼女は顔を赤らめて、また空を見る。俺もそれに倣う。
神様、俺たちはもうちょっと上手に生きられるようになりたい。
俺はもうちょっと上手に生きたい ひろ法師 @hiro_magohoushi
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