第42話 病床の水晶
「ではこのクラスの出し物を考えたいと思います!」
6限目のホームルームであった。
文化祭実行委員になってしまった俺は亜美とともにクラスの出し物について議題を行っていた。
とは言っても俺は案を出すのではなく、黒板の前に立ちただひたすらにみんなの案を羅列するだけのマシーンとなる。
これほど楽な時間はない、なんと素晴らしきことか。
案を出せと言われれば書いてて忙しくて何も考えていなかった、と言い訳が出来る。
「劇!」
「お化け屋敷!」
「アイス!」
「メイド喫茶!」
皆思い思いに自分の案を出していた。
いや最後のやつは自分の願望丸出しだろ。
声の出した犯人のほうを振り返って見ると同時に俺の顔は曇った。
大輝の少しニヤけながら俺のほうを見つめる視線があったからだ。
途中まで書いていたメイド喫茶を黒板消しで消す。
「ちょ、ちょっと待てよ!しっかりとした理由があるんだ!」
大輝は慌てるように席を立つと、教卓のところまでやってきた。
なんだお前演説でもするのか?
「えー、男子諸君……君たちは可愛い子が好きか?私は好きである。もし私と同じような考えを持つ同士がいるのならば一緒にメイド喫茶をやろうではないか!メイドとなれば通常の5割増でかわいく見える!それにこのクラスはかわいい子の割合も高い、ゆえに俺はこのクラスはメイド喫茶をやるべきだと思う!」
「「おおおおぉぉぉぉ……。」」
なんて中身のない演説だ、俺まで感心してしまうぞ。
それにしても
完全に男子はメイド喫茶に入れるような考えを持つものしかいないかもしれない。
ため息をもらしながら亜美の方へと視線を移すと彼女は困ったような顔をしながら苦笑いをした。
「かわいい」という言葉につられた女子たちの一部も少しメイド服を着てみたいという願望が顔に出始めたものまで現れた。
「メ・イ・ド!メ・イ・ド!メ・イ・ド!」
クラスの男子たちのメイドコールはどんどん大きくなっていった。
この勢いを止められるものはもういないだろう。
出し物は最初から多数決で決めると言っていたのでこれで決まりだろう。
しかしそこに、一言で女子をまとめ上げるものがいた。
「いや、男子によるメイド喫茶のほうがいいんじゃない?」
なん……だと……?
冗談じゃない、執事ですらなくメイド喫茶だと?
とは言っても他の女子たちもその面白さに惹かれたのかどんどん男子によるメイド喫茶に賛成知り者たちが現れた。
そんなものするくらいなら俺だってメイド喫茶のほうに投票する。
あぁ、これでは紛らわしい、オカマ喫茶とメイド喫茶と分けることにしよう。
俺は黒板にオカマ喫茶、メイド喫茶と書くとすぐに投票が行われた。
クラスは男子20人女子20人という絶対的に多数決ではとり行えないものがあった。
しかし、そこには抜け道が一つあった。
「斎藤さんの分どうする?」
『
「あー、じゃあ俺持っていくよ。」
「有紀てめぇ途中で書き換えたりするなよ!」
大輝はどうやら俺が何かしようと企んでいるのではないか、と考えているようだ。
携帯を取り出すと、動画の撮影ボタンを押し、胸ポケットに入れた。携帯の上部は入りきらず、カメラの部分が上に出ていた。
「はぁ……これでいいか?」
俺は紙をもって廊下から保健室へと向かった。
保健室に入ろうとノックをし、ドアを開けた時だいぶ強め風が隙間から来た。
既に6限目ということもあって、西日になっている光が保健室の窓から差し込み、あけられた窓から入り込む風がベッドのあるカーテンを揺らし、そこにいる人を視線に映してきた。
「来ると思っていたわ。」
病人は上体を起き上がらせて、寄りかかりながら外の景色をじっと見つめていった。
「だろうな。」
窓から入り込む風によってなびく、長く美しい黒髪とともに、その涙ほくろの主はこちらへと向き直った。
長いまつげ、そして綺麗な茶色、中心には黒の瞳。
その澄んだ瞳によって、彼女の周りの事は全て筒抜けになっている。
俺は紙をその女性に渡した。
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