第39話 文化祭実行委員
あの日の事件は全国的に広まった。
詳しい内容は気密性の高いため、周りの人々に話すことはできないが「ジェマが研究中に能力の暴発によってケガをした」という風に報じられていた。
ジェマが自分の能力に喰われるなんてことはないので、このニュースを見た日本の俺と徹也を除く5人は間違いなく『誰かが襲われた』という風にとらえるであろう。
世間としては能力の暴発を疑い、研究によるケガの隠蔽ではないかといった人権を重視する専門家からの指摘などがテレビでは討論されていた。
「梅雨のせいなのか文化祭のせいなのか……。いやダブルだな……。」
「本当にお前って行事嫌いだよなー。」
机に顔から倒れる俺を頬杖をついて笑いながら眺める大輝。
時期としては6月を迎えようとしていた頃であった。
梅雨入りも後1週間後に迎えようとしていて、西から分厚い雲が流れてこちらを覆いつくそうとしているのが窓から見えた。
本日の授業もほとんど終わり、毎週木曜恒例のLHRを行っていた。
「そろそろ文化祭の季節になるわけだが……。」
この学院は後期に体育祭に似た能力を使用する祭りがある関係で、前期のうちに文化祭をすることになっている。
文化祭と言ってもそこら辺の高校と内容はほとんど変わらず、強いて言うなら周りを盛り上げるために能力を芸に使う、ということくらいだろうか。
去年俺は一年生だったためこの学院の文化祭の内容を知っているといえば知っている。
「文化祭実行委員を決めたいと思います。」
『周りと協力をして、まだ慣れないクラスが一丸となって頑張るためのもの』と言えば聞こえはいいな。
しかし、実情はいわゆるナンパ大会であった。
去年は『お化け屋敷』をやったが彼女やそこらじゅうの女の子と遊び、自分のシフトをさぼる奴らがそこら中にいたのを覚えている。
シフトは4分割されていたはずなのに気づいたら俺が10割こなしていた。
『陰キャラ』である俺には全く持って関係のない話であった。
「誰も手をあげないな……。」
文化祭実行委員は書類仕事からすべてのクラスの監視など、文化祭を満喫するのとは程遠いものであった。
書類に殺されるのは社会に出てからでいい。
学生のうちは学生らしくあれ。
「では、とりあえずこの係から――――」
*****
「では決まりましたね、文化祭実行委員は椎名有紀君にお願いします!」
なん……だと……。
ありのまま今起こったことを話すぜ!
俺はじゃんけんとしていたと思ったらいつの間にか負けていた!
な…何を言っているのかわからねーと思うがおれも何をされたのかわからなかった…
じゃんけんを何回かしていたことは覚えてる、しかしその勝敗がどうしても思い出せなかった、いやこれどちらかというと『キング・クリムゾン』の方だな。
「が……ガチで言ってるんですか?」
震えた瞳で担任のほうを見ると笑顔で大きく頷く教師の顔が目に入った。
「後今日の放課後、文化祭実行委員の役員会議あるから」
言うのがおせぇ……あと20分後じゃねえか……。
この担任、だから今日そんなに焦ってたのか……
やはり今日俺が調子悪いのは梅雨のせいでも文化祭のせいでもなく、担任のせいであるようだ。
**********
「よーっし!じゃあ有紀会議室に行くよー!」
誰だろうかこの娘は……。
シュシュで結ばれたポニーテールに、目は金色をしている。
元気ハツラツで初対面だろうと下の名で呼ぶ多分クラスの中心的存在の人だろう。
首をかしげながら彼女のほうを見ているとどうやら理解できた様子、すまない……クラスメイト全員はまだ覚えてないんだ……。
「もしかして、ウチの名前知らないとかー?あんだけクラスで騒いでいるのにみじんも興味なしとかうけるー!」
彼女の名前は「新井 亜美」
同じ文化祭実行委員の人で自分から立候補をした俺の地球の裏にいるような人だ。
俺のようにたいして面白みのない人間だろうと仲良くなろうとする、良い人だ。
「で、アンタは能力を文化祭で使用したりする予定はあるの?」
「いや、ないな。」
「随分キッパリというねーもしかして能力がショボいとか?大丈夫、うちのもショボいからさ。」
確かに地味でショボいな。
能力の発動を許さない、他には鎧を出せる。
「亜美はどんな能力なんだ?」
俺が質問をすると彼女は手を前に出すと何やら力を込めていた。
傍から見ると変わった人であるが、これが能力発動のトリガーなのだろうか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます