第33話 英雄

「はい、そうですが……あなたは……誰でしょうか?」


「ハハ……記憶の片隅にすらいないとなると少し悲しいかな……。」


大輝はイヴに軽く愛想笑いをした。

本心ではきっと思ってもいないのだろう。

俺はこいつにまだ期待をしてしまっている、もしこいつが情報をイギリスに横流しをするスパイダとしても。


「少しもそんなことを思ってなどはいないのですよね?本題に入りましょう。」


「まぁね、でも悲しいのは事実だよ?俺はチャンスをあげたのにな……。」


チャンスだと……?

イヴと大輝は何回か接触していたということか?

なのにイヴは大輝のことを全くとして覚えていないということか……?


「はい、私の4世代前の記憶では確かにそのようなことを匂わせることをおっしゃっていましたね。」


4世代だと?

つまりイヴは……世代を紡いで記憶を共有していたということになるのか?

では「イヴ・オルコット」という存在はなんだというのだ?

大輝の記憶は残っていないというのにか……。

次の瞬間、壁が開き光が差し込めてきた。

先ほどまで暗がりにいたためこんなところに扉があることにすら気づかなかった。


「時間だ……イヴ……本日で君の悲願は達成される。」


奥の方から出てきたのは白衣に身を包んだ研究者であった。

しかし、その人間は…………報道をされたこともあるほど人間だ。


















序列第3位:金剛 徹也



















ジェマが国内にいないという前提がそもそも間違っていた。

ジェマという人間はすべてにおいてのである。

確かに西条先輩のような表舞台に立ち、裏で仕事をする両面を持つ人間もいる。

しかし、常に裏にいる人間が表で行動を起こすはずなどないのだ。

こんなもの自明である。

どうして俺はこんなことにも気づけなかったのだろうか。


「それにしても……随分と人が多くないか?この部屋は……。」


一瞬であった。

地面に巨大な穴が開いた。

殺気に気づいて避けなかったら俺は地中深くまで埋め込まれていたであろう。

何があったのか全く分からなかった。

透明化を解くべきか迷ったが能力の重複はできないので、俺が能力を使うには今の状態を解かなければならなかった。

イヴの手に触れると俺の透明化は解除された。


「…………。」


「…………。」


流れる沈黙。

そして驚きを見せるのはジェマではない二人。

ただじっと無言で睨み合う。


「やっと鎧脱いでくれたか……。」


「脱ぐも何もまず着てないだろ。」


会いたかったわけではない。

しかし、関わってしまった以上もう見過ごせない。


「有紀……お……お前……どうしてここに……!」


「大輝、話したいのはやまやまだが、どうして今お前はイギリスと行動をしている?」


「そ……それは……。」


目をそらし言いよどむ。

視線を逸らすその瞳には迷いがそこにはあった。

何だろうか……この感覚は……ここにいるのはいつも学校生活を送っている大輝そのものだ。

何が大輝こいつをここまでにした?


「ならいい……イヴ……お前はどうしてこのようなことをしようとしたんだ?」


こいつらの言っていることからだいたいのことは予想が出来る。

しかしそれは人道的にあってはならないことだ。

こいつは……



イヴという人間の中身を戦闘の経験値以外消去することによって、さらに上の能力へと昇華をする、人体実験を行っている。そのために、イヴの無駄となる記憶を省きに省く、つまり……最終的に残るのは命令をこなす最強の人形……。


「私は……私は……我が王のために……。」


知っていたとも。

彼女はこういう人間なのだ。

誰よりも自分の能力に愛情が深い、そして尊敬する人物は『アーサー王』

すなわち彼女は円卓の騎士の中でもアーサー王に対して最も大きな瓦解の原因を招いた………『ランスロット』。

誰が彼女をここまでの人間にしてしまったのだろうか。



「お前は『イヴ・オルコット』だ。それ以外の何者でもない。」



この子とは短期間しか話してない。

でも……彼女がどういう人間で……どういうことのためにこんなことをしているのかはわかっている。


「我こそは『イギリス』おける英雄『アーサー・ペンドラゴン』なり!ただ一人になろうともその剣をもって平和をもたらさんとする使命がある!」


「え?」


イヴは虚を突かれたような顔をした。

俺の体には白銀に輝く西洋の鎧が身に纏われていた。

そして床に刺さっているのは光り輝く伝説の剣『エクスカリバー』


「俺はお前に感謝をしている……ランスロット……イヴに備わってくれてありがとうな?」

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