第32話 研究所と尾行

何も起こらかった……というわけでは無そうであった。

俺も最初は疑っていたが彼女の様子を見るにどうやら成功であった。


「はい、これで完了です。」


「ありがとう。」


彼女の森の番人の能力は『透明化』

自分とその触れている人間を透明人間にするという能力だ。

暗殺においては最強だったりとグラッツェほどの能力はあるのではないだろうか?と思っていたがどうも違うらしい。

デメリットとして、まず透明化していない人間に触れられた瞬間透明化状態は解けるのである。

次に周りの人間がこちらに気づけない、これこそがデメリットである。

その状態で横断歩道などを渡ろうものならば、死ぬ可能性はかなり高くなるであろう。

当然ながらではあるが、透明人間の会話は相手に聞こえることは絶対にない。


「でもどうやって侵入をするのですか?扉は手動ですから、こちらが扉を開けるのを門番側から見るとかなり不自然です。」


「あぁ、そんなこともあろうかと……」


俺はイヴに電話をかけた。

もしイヴがこの研究所にいるならば、俺に計画の内容を聞かれたくはないため外に間違いなく出てくるだろう。

しかし俺ら透明人間の声は絶対に彼女に伝わることはない。

そして何より、この携帯電話も現在、透明化している状態である。

ならば彼女の声を発する携帯電話もつまり透明状態。

よって彼女がいくら話しかけようと周りに伝わることはぜったにない。


彼女が鞄をごそごそと漁りながら出てこようとするのが見えた。

多分今漁っているのは携帯電話だな……。

俺は荷物の一式を栞奈に預けた。

狙うは出てくる瞬間……タイミングは一瞬……。


「今!」


出てくる瞬間と立ち代わりに、そしてイヴに触れることなく、潜入することに成功した。

イヴは最初携帯を耳に当てていたが、30秒ほど経つと、首を傾げた後、携帯を閉じた。


「冷汗がやばいな……。」


内部に潜入をすると、白衣を着た研究者らしき人間や、戦闘服のようなものを着た人間など様々な人間が研究所内部にいた。


「まぁ当然ながら軍事運用も狙っているってわけ……。」


俺はイヴからおよそ5m程の距離感を保ちつつ、後ろを尾行し始めた。

彼女は迷うことなく突き進んだ。

その途中には能力の応用として作られた試作兵器の試運転などがされている実験場や、能力者の能力測定施設などもあった。



****



彼女はずっと進んだのち、ある扉の前で止まった。

壁に手を付けて、指紋の測定をしているようであった。

その後、何桁かの番号を入力してカードをスキャン。

国直々の研究所とはいえかなりこの部屋は厳重なつくりをしているんだな……。

扉が早くしまっては意味がないので、足早に彼女の背後にぴったしと張り付いて中へと侵入をした。


「やぁ、お待たせしたね。君が『イヴ・オルコット』だね?」


奥にいたのは俺のよく知る人物がいた。

学校に朝から一緒に登校をし、同じ授業を受けた。

最近はどうやらいろいろと事件に巻き込まれている人間『山崎 大輝』の姿がそこにはあった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る