第31話 森の番人

大輝は喫茶店を出てからというものかなりの警戒をしながら道を歩いていた。

周りにはバレないようにはしているが、長く伸びた前髪で目元が隠れるようにし、周囲を確認してることを悟らせない。

尾行されるこういうことにはかなり慣れているようであった。

時々携帯でマップを確認していたのかと思ったが、当然ながらそのようなことはなかった。

携帯を開くと、カメラを起動し背後の確認をしていた。

多分その尾行警戒者には俺も含まれるんだろうなぁ。


「どうしたものか……。」


大輝に今見つかれば当然ながら俺は捕らえられることになる。

そうなれば迷惑を被るのは大輝だし、逃げるにしても俺は能力をあまり多くの人には見られたくない。

その後大輝は、あたり一帯をぐるぐるとした。

電車にも乗らない……ってことはこのあたりにあるんだなぁ……尾行を巻こうと必死だな。

俺はその後マップを開き大輝が入りそうな建物に目星をつけ、一度離脱をした。


「ふぅ……このあたりでイヴに関係する建物ねぇ……どうせここだろうな……。」


『国立イギリス英雄開発機関』


このあたりは学園都市としての整備も進んでいて、研究所がかなり乱立をしていた。

それ故に高校から近い研究所はいくつもあったが、その中でもイヴに関係のする研究所となればこことなる。

手早く準備を済ませたのち俺は一人の少女へと電話をかけた。


「もしもし?どうしたんですか有紀さん?」


「今すぐ俺の言う場所に来れないか?」


「え!ちょっ!どういうことですか!?」


「話してる余裕はない、来れるか来れないかだけ教えてくれ。」


「えっ!あっ!はい!行けます行けます!」


「わかった。ならGPSを送っておく。」


俺は自分の今の現在地情報を彼女にメールで添付し送った。

およそ5分後に彼女はやってきた。

やってきた少女の名は、栞奈。


「で、話って何でしょうか?ハァ……ハァ……。」


彼女は息を荒くして、俺のところまで来ると膝に手を当てて息を整えようとした。

申し訳ないことをしたという思いはあるが、どうしても、こうせざるを得なかったのである。


「いきなり呼んで悪い、お前にしかできないことなんだ……。」


俺が頭を下げながらお願いをすると彼女は慌てふためいた。


「ど、どうしたんですか!頭をあげてください、私にできることなら何でもしますから!」


「助かる。」


俺は頭をあげると彼女にとりあえず俺が今からやろうとしていたことを説明をした。

すると、彼女は話を聞き進めていくうちにみるみる顔が真っ青になっていった。


「そ、それって危ないことですよ!それどころか国家機密に値する……。」


「わかっている……でも、知らなくちゃいけないんだ。この国にいる最高能力者の一人として。中に入ったら君は離脱してくれ、それまでの間だけ……。」


「なら……私も行きます!「それはダメだ。」」


彼女が決心をした瞬間俺はそれを制止する。

鳩が鉄砲くらったような様子になる栞奈。

しかし、俺はその姿勢を断固崩さなかった。


「ど……どうして……。」


「危ないから……と言って君は納得をしてくれるか?」


このことに彼女は関係がないのだ。

もしこの研究所が無実であった場合……彼女は全く関係がないのに捕まってしまう、俺のせいでだ。

ならば……少しでも彼女の身の潔白を証明しなければならない。

そのためにできることは彼女を事件から遠ざけることだ。

遠ざけたいくせに事件の手助けをしてもらおうとしている、そんな自分が今情けなくて仕方がなかった。


「このことが終わったらなんでも言うこと、俺も一つ聞くからさ。」


「わかりました、でもですね……無事に帰ってきてくださいよ……。」


「世界一強い最後のジェマに任せておけ。」


こんな格好つけた言葉を言ったのはいつ以来だろうか。

昔、特撮系のおもちゃを装備し、言っていた気がした。


『俺は世界一強いんだぞ!』


今となってはどうでもいいことだったがあの時にとっての自分は世界一強いというのは目標になっていた。

しかし今の自分はどうだろうか。


「——さん!有紀さん!」


彼女の声で目が覚めた。

先ほどまでボーっとしていたようだ。

これからすることは国に見つかったら重罪扱いになるかもしれないのに。

研究所はかなりガードが堅い。

『フランス英雄研究所襲撃事件』のときはほとんどの人間は死亡、もしくは脱出をしていたため人が一人もいなかったということが幸いしていた。

しかし今回は何もないただの研究所に潜入をすることになっている。

ならば……正面突破をするには一つの作戦しかない。

栞奈は俺たち能力者ではあるが『レプリカ』にいる人間であった。

しかし彼女の能力はある一場面においては最強をなすのである。


「我が英雄『森の番人ロビン・フッド』よ……森の加護にて我とその身にてつながりを持つものを守りたまえ。」


栞奈と俺は手をつなぐと、彼女が英雄の能力解放を始めた。

風が一度強く吹いただけで、何も起こらなかった。

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