第29話 事件の推理 ~紅茶を添えて~

その日はイヴは図書館にいなかったため残る理由もなかった。

そのまま俺は家に帰ろうとしていた時大輝にふと出くわした。


「今日はどうしたんだ?」


「あぁ、大輝か……。」


「どうしたんだ?浮かない顔をして。」


俺の今の様子が分かると、大輝は心配してきた。

大輝に今のことを知られるわけにはいかない。

俺はどうにか取り繕おうと話を変えた。


「何でもねえよ……それにしてもお前こそ今日は何もないのか?」


「あぁ、もうだいたいのことは終わったし。明日からは一緒に帰れるぞ。」


大輝はきっと俺に伝えることはなく任務を遂行するだろう。

俺は何一つ証拠を残さないよう元の場所に本を戻しておいた。

しっかりと紙も綺麗に折りたたんでおいた。

イギリスからの任務の依頼は……


「ジェマ開発の被験者の調査」


だろう。

このプロジェクトが成功したとしよう。

もしこのプロジェクトの内容がイギリスに流れれば、持ち帰っていろいろな人で実験をするのだろう。

「戦争は技術の発展を促す」

なんて言葉があったな。

戦争で10万人が死亡することによって技術が発展できるなら、このジェマ開発の実験ではもっと少ない人間の犠牲で利益を生み出すことが出来る。

だが……出来るだけだ……その先にあるものは何だろうか。

倫理的観点に基づいた時、『犠牲者』の数というものは関係があるのだろうか。


「大輝、話がある。」


「どうした?随分と真面目な顔つきになって。」


大輝は飄々としながら反応をした。

しかし俺がひたすら真面目な顔つきで、大輝を見つめると徐々にその開いていた口は閉じられ真剣になった。


「少し……寄り道をしてもいいか?」


「あぁ」


その後俺たちは終始無言で帰り道を歩いた。

そして一つの喫茶店の中へと入っていった。

1年生の時はよく帰り道など勉強をするときに活用をする場所で、ここの店主とも顔見知りだ。

しかし、春休みに入ったということもあり、行く回数は最近は減っていたのであった。


「おや、随分と久しぶりだね。」


「ご無沙汰しています。」


「今日もいつものでいいかい?」


「はい。」


俺たちはいつも決まったやつを注文をしていた。

俺は紅茶に子袋の砂糖一本、大輝はコーヒーをブラックで飲む。

俺はもともと甘党故コーヒーなどとは疎い存在であり、ココアをよく飲んでいた。

しかし、ここの喫茶店を活用し始めてからは紅茶派になりつつあった。


「で?話ってのはなんだ?」


俺たちが席に腰を掛けると大輝は俺のほうを真っすぐとみて、聞いてきた。

その質問がされてから、俺の中で3秒ほど言葉を理解するのに時間がかかってしまった。

緊張をすると人の話を理解するのにすら時間がかかってしまうようだ。

頭の中でしっかりと自分の今聞きたいことを反復したためさらに5秒ほどの沈黙が流れた。

その後、俺は一度大きな深呼吸をすると大輝に話した。


「単刀直入に言おう、調査員からの依頼の内容はなんだ?」


「教えることはできない。」


即答であった。

当然と言えば当然だ、普通に聞いたところで情報を漏らすはずがない。

ならば俺がこのことを知っている前提で話を進める。


「話の流れはおおよそ掴めている、お前が探していたもののことも。」


「へぇ、じゃあ教えてもらおうか。この名探偵に。」


質の悪い人間だ。

普段は名探偵のうりょくなんてものを鼻にかけたことすらないくせに。

こういう相手をこけおどしたりするときには積極的に活用をする。

まともに語り合っていてはこいつの話術にからめとられる。


「ではまず初めに、お前がいつからその調査員と繋がっていたかはわからないが、今回はお前が協力しているということは確かだな。」


「まぁ、俺に対する依頼であったからな。」


当然だ、というかのごとく大輝は眉を動かす。


「じゃあ次だ。依頼の内容は『library 953』でいいな?」


この言葉を発した瞬間大輝は目を見開かせた。

どうしてこいつが知っているんだ、というかのごとく驚嘆している。

あの日俺はたまたまあの紙を見ただけだ。

しかしこの紙によって『計画プロジェクト』は色を付け始めた。

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