第27話 に関する者

栞奈に見られたりしたらどんな記事にされることやら……。

俺はとりあえず栞奈が本を返却ボックスに投函するまで適当にトイレで時間を潰したのち図書館へと戻っていった。

すると俺が外に出るまで西日が差し込む席で本を読んでいたイヴかのじょの姿はどこにもなかったのだった。


「やられた……。」


俺は辺り一帯を見まわし、本棚の通路まで徹底的に調べた。

しかし彼女の姿はどこにもなかった。


「あの本は……。」


彼女がここで呼んでいた本は間違いなくここにある。

図書委員によって貼られたバーコードがあるからだ。

もし貸し出し申請をすることなく本を外へ持ち出したならば図書館玄関にある機械が自動的に判別をし、司書のほうへと連絡がいくのである。


「機械が判別できないほど気配を消す能力があるなら話は別だがな。」


俺はとりあえず彼女が持っていた本のタイトルをパソコンの検索で打ち込むと案の定位置が出てきた。

証拠隠蔽のためか、しっかりと彼女は本を元あった位置に戻してあった。

そのまま本棚のほうへ向かいその本を手に取るとパラパラと本をめくった。

いたって書店にあった本と何一つとして変わっている内容はない。


「思い過ごしだったか……?」


しかし、どうして彼女はこの本を図書館に置いていったのだろうか?

俺から逃れるためかつ証拠隠蔽?いやそんな安直な女性ではない。

もっと彼女は……言い方は悪いが『こすい』人間だろう。

なら……


「俺への挑戦状ってことか……。」


彼女は俺にこのことが不審がられたとして真実にはたどり着けまいとでも考えている。

確かに、今の俺の頭では彼女はどうしてこの本をわざわざ借りて読んだのか全くと言っていいほどわからない。


「いくら考えても材料がないなら推論のしようもないし仕方ねえな……帰るか。」


俺は荷物をまとめて図書館を出た。

時計の針はおよそ5:30を回ろうとしていた。

まだ夕方とはいえ、春のためあまり日は長くなく、すでにあたり一帯は暗がりになっていて電灯がつき始めていた。


「最近はいつもこんな時間だな……心配かけさせるな……。」


俺は一人、着崩れた制服を正しながら一人の人間を考えていた。

自分よりも小さいのに性格は人のことを第一に考えてしまう、どこかの誰かに似た人であった。



******************



「ここの音読を3分間、繰り返しなさい。」


その日の俺は実に退屈と思っていた。

「もともと外来語をやる気のない人間が反復練習をしたところで効果はあるのか?」や「だいたい俺他の国行く気がねえしな。などといった相変わらずしょうもないことを考えていた。」

その癖にテストの点数が怖いため勉強をする。一番愚かなのは自分であった。

そんな中、次の教師の一言で俺の頭の中で何か……新たな手掛かりを得たような気がした。




「―――であるからしてここの『ary』とついている単語はすべて『…に関する者』を表している。例えば―――」




何だろうか、この感覚は……。

教師が発したのは、ただ普通に英語の授業の内容のはずであった。

はずだったのに……どこかで……肝心なことが頭の中で抜け落ちている気がする。

このもどかしい気分が自分を襲い、残りの授業の時間をすべて奪っていった。

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