第26話 三桁の暗号
彼女の様子は自然体で何一つ不自然な動作はなかった。
いや、世間一般の彼女に対する考えからしてみれば不自然極まりなかったが、あの姿はまさしく「イヴ・オルコット」の素であると断言できる。
ということは彼女は俺との会話の中で意識していたことはなく自然にも俺の頭の中と一致したということだ。
「最近あったこと……」
自分の前髪を引っ張り、指にくるくると巻き付けては、ほどいてを繰り返す。
最近考え事をしているうちに変な癖がついてしまった。
そんなことは気にも留めず周りの視線を気にすることもなく俺はただひたすらに最近あった出来事を考えた。
「大輝の調査員からの依頼か……栞奈の話していた『噂』か……。」
大輝の調査員の依頼の話か?
仮に「イヴ・オルコット」という存在がイギリスの血を受け継いでる影響によって『円卓の騎士』になっているとすれば話はつながる。
しかしあくまで推論に過ぎないため俺がこじつけない限り不自然は感じないはずだ。
「イヴの服装は制服だ……読んでいた本は……昨日本屋で買っていた本……。」
別に昨日買った本を落ち着いて読めるため図書館へ行く、なんてことはザラにある。
本のタイトルは確か……『紀元前から現代までにおける英雄』だったか?
彼女が顔を隠した時に見えた背表紙に書いてあったのを思い出した。
その瞬間自分の中にとてつもない違和感が生じているのを感じた。
「どうしたんですか?考える像みたくなって。」
「のわっ!なんだ……栞奈か……驚かすなよ……。」
「こ、こっちのセリフですよ!」
「わ、悪い……。」
「深く考え込んでいたようですけど何かあったんですか?」
栞奈は不思議そうな顔をしながら崩れた眼鏡をかけなおした。
前方から人が向かってきていたことに気づかなかった……。
「んーテストでどうやったら赤点取らないかってことを考えてた。」
「何言ってんですか……勉強すればいいでしょ。」
彼女は呆れたような様子でこちらのほうを見る。
「お前こそ何か図書館に用があるんじゃないのか?」
「あぁ、そうでした。本を今日までに返却しなくちゃと。」
栞奈はある一つの物へと指さした、返却ボックスだ。
図書館には入らずとも外にある返却ボックスへ投函すれば自動的に司書が戻してくれるシステムになっている。
彼女は3冊ほどの本を俺に見せてきた。
文庫本のようだがどれも有名なミステリー作品だ。
アガサ・クリスティーやエド・マクベインによる作品だ。
タイトルを見た時に俺は彼女が呼んでいた本と一致する部分を見つけた。
「いや、タイトルではない……その下か!」
「何を言っているのかわからないですけど解決したなら良かったです。」
「あぁ、マジで助かったありがとう!」
俺は栞奈にお礼を言うと図書館の中へと向かった。
この学院に限った話ではないが、図書館などには借りるときのためにバーコードや日本十進分類法によって分けられた三桁の数字が割り振られている。
しかしそれがあるのが問題なのである。
彼女は本屋で確かにあの本を買っていた。
ならば…………
「どうして彼女は自分で本を買ったのに図書館で同じ本を借りて読んでいるのだ……?」
彼女に対する違和感の正体はこれであった。
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