第25話 図書館での会話

図書館に入ってみると、一つの机に華が咲いているのが分かった。

図書館に窓から差し込む西日が彼女の影をより鮮明に映していた。


「よう、隣いいか?」


「何で6人掛けテーブルなのに隣に座るんですか……他にしてください。」


「じゃあ前ならいいか?」


「まぁ……はい……。」


俺は彼女の前の席に座った。

これは一つの心理的テクニックだ。

一つ目には大きな無理難題なことを言う。

するとその相手は間違いなく「嫌だ」というだろう。

そして次に実現可能ではあるギリギリのラインを責めると、自然と相手は「先ほどよりはマシだから良いか。」と思い込むのだそうだ。


「勉強勉強っと……。」


俺は鞄からノートと教科書を広げて勉強を始めた。

西日によって微妙に見づらくなった教科書が腹立たしいがそんなことは気にせず、ペン回しとノートへの書き込みを繰り返すのであった。


「まだこの学校に入学して間もないんじゃないか?学校生活には慣れたか?」


何気ない質問をすると彼女はこちらを見向きもせず軽くあしらうかのように話した。


「はい、友達も出来ましたし授業も順調です。強いて言うなら能力向上プログラムが少し遅れていますね。」


「あぁ、あれか。能力向上プログラムは感覚でどうにかするしかないしなぁ、それぞれの人間の能力に合わせてプログラムが組まれている以上教えようがないな。」


能力向上プログラムとは国がこの学院に導入した独自の授業とでもいうべきものだ。

英雄の力は当然ながら持って生まれた英雄で決まる。

しかし、能力は限界があるとはいえ鍛えられるのである。

ゆえにフェロだろうがグラッツェだろうが鍛えれば技術に応用できる可能性があるため国は推し進めているのである。


「感覚?つまりどういうことですか?」


「MT車の半クラッチとかと同じってことだよ。場数を踏んでどうにかするしかないのさ。」


「車について知ってるなんて、先輩っていくつなんですか?」


イヴは呼んでいた本を置き視線をあげると、いぶかしげに俺の様子を伺った。


「車の免許は持ってないぞ、バイクならあるが。比喩表現だ、比喩表現。」


無粋なことを言うなと言わんばかりに俺はムスッとした顔をすると彼女は少し笑った。

自分が笑ったことに気づくと彼女は顔を真っ赤にし、持っていた本で急いで口元を隠した。

その後俺と目が合わないように視線をそらした。


「何で隠すんだよ。」


「別にいいじゃないですか。」


「その本をどかせよ。」


俺が軽く本をどかそうとすると彼女は本を両手でもち自分の顔の前から避けようとしなかった。


「いーやーでーすー。」


徐々に俺たちの声は大きくなっていた。

何かの視線を感じ周りを見渡すと図書館にいた生徒たちがこちらのほうを見ていた。

図書館であるということを忘れて会話を楽しんでいたことを思い出し俺は急激に恥ずかしくなった。


「この部屋は随分と暑いなぁ。」


「冷房ガンガンに効いてて寒いくらいです」


その時何か重要なことを見落としている、もしくは一度見たというのに気に留めていないということに気づいた。

イヴとの会話の間か、もしくは今の視界にあったものか……。


「ちょっと風浴びてくる。」


一度しっかりと考えるべく俺は外へ行った。

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