第21話 ジェマに近い才能

今日の授業も終わり俺たちは帰る支度をしていた。


「悪いな有紀、今日用事あるから先帰ってくれ。」


大輝は手を合わせて微笑をし、頭を下げながら俺に対して謝罪をした。

昨日の調査員と関係のあることなのだろう。

俺は特に詮索することもなく一言「わかった、じゃあな。」とだけ言い、バッグを肩に背負いなおすと教室を後にした。

一人で帰るような日は久しぶりであった。

周りの生徒達の喧騒が耳に入らないまま昇降口を出ると、一人の女子生徒に出くわした。


「あ!有紀さんじゃないですか!」


栞奈は俺を見つけると、手を振りながらこちらのほうへ近づいてきた。

首からは一眼レフのカメラをかけていた。


「なんかの取材か?」


「そうなんです!今回は『一年生の有望株!』ってタイトルです!」


「一年生の?で、何かいい人は見つかったのか?」


「それがですね……一年生にどうやら『ジェマに近い才能を持つ者』がいるらしいんですよ。」


「近いねぇ……近いだけであくまで『グレッツォ』なんだろ?」


一度選定されたものはどうやっても覆らないのがこの世の常識である。

ゆえに『グレッツォ』から『ジェマ』へ上がることは一度としてない。


「そう、そこなんですよ!で、ですね?ある噂を聞いたんですよ!」


「噂?」


俺が首を傾げながら質問をすると栞奈はおもむろにポケットから手帳を取り出しパラパラとめくった。

そして一つのページを開くと目を輝かせながら俺に対して伝えてきた。


「国が『グレッツォからジェマへのクラスアップの計画』を立てているなんて噂を聞いたんですよ!」


グレッツォからジェマだと?

およそ今までは努力ではクラスアップすることはなかったのだ。

なぜなら能力の向上は見込めてもその上昇率は人それぞれだからである。

例えば『700℃の炎を出せる英雄』がいたとしよう。

その英雄が努力しても限界があった。

『700℃から太陽の表面温度である7000℃』へのクラスアップは不可能であった。


「ちょ、ちょっとそれ詳しく聞かせてくれないか!」


俺は肩をつかんで栞奈を揺さぶり、焦りながら質問をした。


「ちょっ!ち、近い近い……。」


声が小さかったためうまく聞き取れなかった。

俺が「え?なんて?」と言いながら顔を近づけると彼女の顔はみるみる赤くなっていった。


「す、スマン!肩を思いきりつかんでしまった。苦しかったか?」


「そ、そういうわけではないのですが………まぁあくまで噂ですよ?」


最初のほうは何を言っているのかうまく聞き取れなかったが、少しでも話聞こう。


「まずその前にその研究対象である『ジェマに近い才能を持つ者』の名前すらわからないんですよ。」


国から極秘にこの計画が行われているとすればその生徒の英雄などを公表することはしないだろう。

誰だってクラスアップが出来るならそうしたがる。

そのことを知ればクラスアップを求めて学院の生徒のほとんどが暴動を起こすだろう。

大輝のように英雄に関して興味のない人間は除いて。


「大体、どうしてそこまで『クラスアップ』に興味を持ってるんですか?」


英雄のうりょくに手を加えるということがどういうことだかわかっているのか?」


「と、いうと?」


「その英雄にちなんだことしか普通はできない。しかし国がやろうとしていることはその限界を超えたものだぞ?」


「つまり……英雄のうりょくの限界を超えるためには……。」


英雄を宿す者のうりょくしゃ英雄を宿す者のうりょくしゃの合成……だな。」

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