第19話 イギリスのジェマ終
英雄とは、人々の希望が生み出した幻覚なのかもしれない。
だから、失望させてはならない。
故に俺は人を守り続ける。
『その首、貰った!』
少し足元を崩した瞬間を狙いすまし、剣を振り下ろした。
血が飛び出て、俺の体に付着をしていた。
しかし、男の首は地面には転がっていなかった。
『いやぁ、能力による戦いは実に面白いな!』
『何が言いたい?』
男の顔には先ほど振り下ろした剣先が深く、斬りこまれていた。
そして、一生治らないであろう傷がそこにはついていた。
『目的はすでに完了をしているということだよ。俺があんたと戦っていたのは俺の趣味だな。後始末ととらえられることもできるだろうけどね。』
男は懐から紙の束を俺に少し見えるように取り出した。
そしていそいそとまた懐にしまうと、ちらりと俺のほうを見た。
『まぁでも楽しませてくれたお礼とでもいうかな。君の学院生活のためになる言葉を教えてあげよう。』
『その前に、その書類を返せ!』
俺の情報はフランス英雄には載っていない。
しかし、周りの生徒の情報が抜き取られたとなればこれからいろいろな国から情報を抜き取ろうと躍起になる輩もいるであろう。
『君は、自ら名乗るであろう。』
ためになる言葉でも何でもなかった。
男は一方的に俺の言葉も遮るかのように話すと、左手を壁に当てた。
しかし、この言葉が俺の未来のことを予測しているとなれば……。
『壁に左手を当てる……まさか!』
『まぁ、こんなことであんたは死ぬとは思わないけど、死んでくれたらうれしいな!』
男に触れられた壁はどんどん空洞になっていき最終的に、地下一帯が空洞になったことで支えきれなくなった建物が地下に崩落してきていた。
『とはいっても……報酬金はあまりもらえないか……最低限の任務だったしな……。』
男の影が見えなくなっていった。
しかし、今この場の俺はかなり追い込まれていたため自分のことで手一杯になっていた。
『ここで能力を使うか……?いや、倒壊したものをはじけ飛ばして周りの建物に危害が出たら大変なことになる……ならば……』
『走るか。』
俺は全力疾走を開始して元来た道の階段を自分が出来るだけの速さで登った。
奥からは建物が倒壊するすごい音と、舞い上がった埃が近づいてくるのが分かった。
『あんなに強いらしい『最後のジェマ』が生き埋めで発見されたとかシャレにならん!』
**********
有紀の様子はどうか、学校にいた時とは違って見えた。
当然といえば当然だ、ジェマ同士の戦いを見たら自分がどれほど無力なのかが分かってしまうからだ。
「なんでもねぇ、『最後のジェマ』見たかったな……。」
「お前は生きてることに感謝をしろ。死んでる確率のほうが高かったんだぞ!」
「あぁ、そうだな。」
「ん?お前……やっぱ何でもない。」
「?」
有紀の耳に赤いものが付着しているのが見えた。
血だろうか?有紀はあまり重症には見えないが
ジェマ同士の戦いを近くで見ているうちにどちらかの血がこいつに付着したのだろう。
しかし耳だけに血を浴びることってあるのか……?
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