第18話 イギリスのジェマ④

トロイの木馬

その名の通りトロイア戦争で使われた巨大な木馬である。

小アジアのトロイアに対してミュケーナイを中心とするアカイア人の遠征軍が行った戦争。

中に人が紛れてトロイアにこの木馬が運ばれたのち夜に中から人がぞろぞろと出てきて一気にトロイアを壊滅させたというものであった。


「となると、そのトロイの木馬の中心人物になり得るかつ、頭が回る奴………オデュッセウスか?」


「当たりだ。ゆえに俺の左手で触れたものは内部からぼろぼろと崩壊を起こす。」


「俺はそんな木馬を自分の国に入れてやるほど阿呆じゃないぞ。」


「ま、確かにな!」


男は同じようにそのまま俺との距離をどんどん縮めようと左手を前に突き出しながら迫ってきた。


「左!」


左を防いだ瞬間視界が一気に下がったのが分かった。

足をかけられた!

どうにか抜け出し体勢を立て直そうとする。

当然だ、相手は前傾姿勢でガンガン攻めてくればいいのに対して俺は下がり気味にまずは左手に触れないことから優先しなければならない。

武器も左手に触れられればゲームオーバー

明らかに実戦慣れをしている人間だ。

大輝達あいつらがここまで来るのも時間の問題だ。


「ふー、なら俺も……命賭けなきゃなんねえな。」


剣を振るのは一度、ミスったら鎧はすべて消滅させられる……か。

一気に間合いを詰めて左手の届かないように足首に払いを入れようとすると、相手は足を引きながら左手で触れようとしてきた。


「それだけ足を後ろにやってるのに前傾姿勢になったら倒れるだろ!」


前のめりになった顔面に上段蹴りを入れようとした瞬間、手首をひねって手の平を俺のすねの前に持ってきた。


「鎧の一つや二つ、くれてやる!」


「グッ!」


そのまま上段蹴りを打ち込むと手のひらを押し込みながら顔にめり込んでいった。

手で防いだとはいえ、顔に上段蹴りが当たれば少しでもひるむだろう。

そして男の視線が落ちた瞬間、頭の上から剣を振り下ろした。



***************



「大丈夫だったか!有紀!」


俺が研究所から外へ出ると大輝と一緒に警察の人が後ろにいた。

いや、警察とはいえ、特殊能力対策班だが。

英雄の力が大発見であった特殊能力黎明期、英雄の力を宿した人間は、自らの力におぼれ、能力を犯罪に使用することも少なくなかった。

そこで国が作ったのが『特殊能力対策班』だ。

とは言っても、最近になってようやくまともに活動できるようになってきていた。

昔は特殊能力に対策する方法がなかったからである。

しかし、現在では、能力を活かして警察に志願するものも少なくない。


「あぁ、とは言っても俺がついたころには、もぬけの殻だったぞ。」


「ということは、『最後のジェマ』がやっつけてくれたのか?」


「さぁな、でも……」


「ん?どうした?」


奴は生きている。

確実に殺せてはいなかった。

やはり一撃でやれるような相手ではないということだろうか。

『オデュッセウス』の力を宿した英雄……。

左手の能力だけで収まるような奴ではない……まだ何か力を隠していたはずだ。


「なんでもねぇ、『最後のジェマ』見たかったな……。」

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