第10話 英雄と動機

『それにしてもどうしてバラされたくないんですか?』


新聞部の女子生徒こと『北上きたかみ 栞奈かんな』は不思議そうな顔をしながら俺に問いかけてきた。

彼女には今回の誘拐未遂事件によって俺のことが殆ど知られていた。


『目立ちたくないから。』


『そんなことのためにですか……。』


『そんなこととは何を言うか。俺は平凡な人生を歩み平凡な職に就き、平凡な嫁と結婚をする。』


『でも、もうそのは訪れないんじゃないですか?西条先輩に知られてしまった以上……』


栞奈は申し訳なさそうに俺のほうをチラっと様子を見ながら見た後、恐る恐るこちらへと顔をあげた。

今回彼女を助けたのは俺が自ら選択した道だ。

当然ながら戦いに関しては後悔だらけではあるが助けたことに関しての後悔は一つとしてない。


『あぁ、それなら問題ない。多分西条先輩あのひとは俺のことをばらさないと思うぞ。』


『どうしてですか?』


『テレビに出てる女の子が腕をなくして登場!なんて事態になってみろ。放送中止ものだぞ。』


『でも情報を散布する方法なんていくらでも……』


『ここからは俺の憶測の話になるけど、他の『ジェマ』にいる奴らは俺の正体を知らない。彼女が俺以外のジェマ全員と手を組んで情報を漏らしている可能性もあるが、ほとんど0に等しいだろうな。』


『それはまたどうして?』


『それは言えないなぁ。』


俺が彼女見下ろしながらニヤけていうと、彼女は頬を膨らませた。そしてその後諦めたかのように溜息を一つこぼした。


『むー、はぁ……わかりました。今回の件については私の落ち度ですし、素直に引き下がります。』


『君以外の人間が事件の発端だったら追及するかのいいようだな……。』


『当然です!』


『反省しろ。』


『はぁい。』


彼女は気怠げな返事をした。

その後俺たちは別れて自宅への道を辿ったのであった。

だって……ジェマあいつら仲悪いしな……。


************



「有紀、見たか?これこれ。」


「あ?」


大輝の差し出した携帯を見るとばっちりと能力使用時の鎧が写真に収められていた。


「なんだ?これ、お前がとったのか?」


昨日、周りを鎮めてくれた大輝がこんなことをするような奴ではないとわかっていながらも聞かずにはいられなかった。


「違う違う、各テレビ局にこの写真が匿名で送られていたらしいぜ?それもブレなしの鮮明な写真だ。」


なるほど、俺の正体をばらさないとはいえ、いつでもばらせる状況を俺に見せつけるかつ、周りのジェマに対して俺のにあったという証拠も込められている。

しかも、匿名ゆえに西条先輩かのじょがテレビに出る必要もない。

鎧の中身が見えないよううまい角度でとられているな。

なんか癪に障る。


「この写真もあってテレビは朝から『最後のジェマ』の話題でもちきりだぜ。彼の英雄は何か?だとか鎧の中身の骨格まで再現されてるらしいぜ。」


「なんだよそれ……。」


骨格を表現するのは勝手だが誰にメリットがあるんだよそれ……。

当然ながら、英雄をばらしたことは一度としてない。


「お前はどう思うよ、この英雄。」


「そうだなぁ、とは言っても俺は一度しか見たことがないからよくわからん。それも目で追いきれないほど速かったしな。それこそお前の得意分野なんじゃないのか?『グレッツォの名探偵』さん?」


およそこの学院に在籍しているグレッツォの数は200人ほどしかいない。

そして『山崎やまざき 大輝だいき』はその一人だ

だからこそ『グレッツォ』クラスの人間こそがこの学院を実質的に支配していたといえるであろう。

なにせジェマは学校にすら来ない。

しかしそれは西条先輩が来るまでの間であった。


「目で追えないレベルのものを推理しろとは明らかに無理があるだろ。」


「じゃあ西条先輩が何の英雄かわかるか?」


「さぁ、あの先輩たちが悪いからろくでもない英雄だぜきっと。殺人鬼とか、その辺りだろ。」


「なぜお前に『シャーロックホームズ』が適合できたのかことごとく不思議に思うよ。」


「奇遇だな、俺もだ。コカイン中毒のおっさんに好かれるとはな。」


どう考えてもその面倒くさい性格だろ。

しかし、西条先輩の能力は確かに

ドラゴンの召喚、そして巨人の生成。

明らかに常人よりも能力のバラエティに富んでいる。

そして何よりも


『1000人の洗脳兵隊』


他のジェマに関して別段と詳しいわけではない。

しかし、彼女は全く脈絡のないスキルが分布している。

それともこれをすべてこなせる英雄が存在していたということだろうか。


そしてもう一つ、どうしてこのタイミングで俺の能力、そして正体をここまで知りたがったのだろうか。

狙うのであればいつでもよかったはずである。

卒業される可能性があるというなら少しでも早く襲撃を開始すればよかったのにだ。

俺は彼女の動機がいくら考えても分からず胸の内で何かがくすぶっているのであった。

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