第9話 彼の証拠
「それじゃあまたね。有紀君。」
「二度と会いたくはないな。」
彼女はそのまま徐々に薄れていき、幻影のときのように消えていった。
それと同時に周りの洗脳も解けた。
しかし俺の今の格好を見てほとんどの生徒は驚きを隠せなかった。
洗脳が解けた瞬間目の前にはあれほど世間で騒がれていた人間が目の前にいるという状況だから必然である。
「え、えっと……あなたが……『最後のジェマ』さんでしょうか?」
ゆっくりと俺のほうへ大輝が近づいてきた。
しかし、普段ため口で話してくる相手に敬語を使われるのはいまいち気持ちが悪いものであった。
諦めて俺の正体を明かそうとすると後ろから鎧をつかまれ引かれた。
少しよろけて姿勢が低くなると、そのまま俺の兜に手を当てながら小声で新聞部の女子生徒が話しかけてきた。
「ここは私に任せてください。」
彼女に任せて俺はそのまま逃げることに決めた。
*************
彼が、あの人だったなんて……。
あの日、私のことを助けてくれた人は本当にすぐ近くにいた。
しかしどうしてあの日私に情報提供などをしてくれたのだろうか?
このまま黙っておけば西条先輩による幻覚でも見たってことにできたのかもしれない。
「彼はあまり自分のことを周りに知られたくないとのことですので今回はお引き取り願います。」
「でも兜を取ってもらうだけでも……。」
「そうそう、私も前々からどんな人か知りたかったんだよね~。」
「先ほどから親しくしていたあなたは知ってるからいいけどね!」
洗脳が解けた生徒たちのほうから顔がみたいといった声が多数上がった。
それと同時に私に対する妬みなどが少し挙がった。
どうすればいいのかわからず周りを鎮めようとすることしかできない私の近くで一人の男子生徒が声をあげた。
「いいじゃねえか。彼は顔を見られたくないんだろ?顔なんて見なくても俺たちを助けてくれた心の優しい英雄に決まってるだろ。これ以上は彼のために詮索しないでくれ。」
確かこの人はあの人と一緒に部室に来た……
「う……うん……それはそうだけど……」
「しかも、これで顔を見られたからもう俺たちのことを助けてくれなくなったらどうするんだ?」
「………。」
「な?ってことで今日はもう放課後だし各自解散にしてくれ。」
それ以上周りの生徒は『最後のジェマ』について聞くのをやめた。
どうにか丸く収まったようだった。
「すみません……ありがとうございました。」
「今回の情報提供に加担したのは俺でもあるし、いいってことよ……それにさ、俺の知り合いによく似てたんだ。他人とかかわるのが嫌なくせに人一倍他人におせっかいを焼いて、自分一人でどうにかしようとする、しょうもないやつなんだけどな。ニヒヒ。」
彼は指で鼻をこすりながら笑顔でそう答えた。
***************
「で、俺のことはもう君にはバレてしまったわけなんだけど。何かまだ俺に隠してた情報あったでしょ。」
「い、いやそのですね……。」
「ちゃんと教えてもらうからな。」
「はい……実は……これ……なんです……。」
「これは……本当にやばいだろ……。」
彼女が取り出したのは小さい円柱状の透明なケースであった。
中に入っている者を見た時俺はさすがに驚いた。
なぜならその中に入っているモノとは……
『髪の毛』
DNAの塊だ。
流石にこれを採取する人間がいるとは思わなかった。
それにいつこの髪の毛拾った?
「これ……なんで君が持ってたの……。」
「兜の隙間から一本落ちたのが見えたのでこっそり……。」
「怖すぎだろ……。」
「はい……本当に申し訳ありません……。」
「それ捨てておけよー。」
「ですがこれは貴重なものでして……それに私の記念日としてですね……」
「あ?なんかいったか?」
「い、いえ!ただいま捨てます!」
彼女は髪の毛を取り出すとそれをごみ箱に急いで捨てた。
しかしその空になった小さな容器には付箋が貼ってあった。
何が書いてあるのかは読めなかったがきっと彼女にとって重要なことなのであろう。
「あ、あと俺君の名前いまだに知らないわ。」
「ええええぇぇぇ!?」
『彼があの人である証拠』
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