第55話 闇への誘い

チッタの外れ。


「ちくしょうっ!」


罵声を吐きながら、スクードは追ってくる敵を切り倒す。

先ほどから何時間これを続けているのだろう。


敵の数は多い。

無限に増えているのではないかと思うほどだ。

赤い面が、スクードの前に立ちふさがる。

十人は超えるだろう。


スクードは舌打ちした。

どうやらこの場所に導かれたようだ。

かなり消耗している。

乗り切れるだろうか。


「ご苦労様」


後ろから、面をかぶらない女が現れる。

スクードは息を呑む。

黄金の長い髪に碧い目。


「レジーナ姫…?」

「あら。私のことを覚えてくれているの?嬉しいわ、スクード」


こちらの事も知っているようだ。

スクードはレジーナを睨む。


「俗説では、あなたは死んでいるはずだが?」


スクードの問いに、レジーナはからからと笑う。


「俗説?ああ、魔王に穢されこの世を儚んだというあれかしら?」

「ああ、そうだ」

「あんなの嘘よ。私は、魔王様。いえ、エレフセリア様と愛し合っていたもの」


レジーナの言葉に、スクードは反論しなかった。

そのことをスクードは知っていた。

エレフセリアの口から直接聞いた。


「ねえ、スクード。貴方は真実を知っているのでしょう?」

「…ああ」

「なら手を組みましょう?」


レジーナが、スクードに手を差し伸べる。

スクードは首を横に振る。


「この世界の破壊なんぞには興味がない」

「あら、そうなの。残念。でも、あの子には興味があるでしょう?」


スクードの動きがピクリと止まった。


「貴方の守りたい子は私の守りたい子でもあるわ。この国からこの世界からあの子を守るため協力してくださらない?」


確かに、自分の力だけでは守り切れなかった。

だが、これほど多くの力を持つ集団なら―


「いいだろう」


スクードはレジーナの手を取った。


「ありがとう。貴方がいれば、彼も怖くないわ」

「…どうだろうな」

「こっちに来て。皆にあなたを紹介するわ」


レジーナに導かれ、スクードは深い森へと誘われる。

これからの道を暗示しているようだ。


それでも守りたいものがある。


スクードは強くこぶしを握り締めた。

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