第51話 残された手紙

夜が明けた。


宿のロビーでアリシヤ達は合流する。


「教会には話をつけてある。今からデイリアを迎えに行くぞ」


リベルタの言葉に、アリシヤ達は頷いた。

 


深い森の中を、タリスを先頭に歩く。

イリオスは大人しく、アリシヤの袖に手をかけ、ついてきていた。

デイリアの小屋に到着する。


「明かりがついてない」


不審げに声を漏らしたリベルタ。

タリスが舌打ちする。


「あの野郎。やっぱり逃げたか…っ」


荒々しい言葉を吐きながら、タリスが、扉に手をかけ開け放つ。

そして、息を呑んだ。

アリシヤも後に続いて部屋を覗く。

部屋の中は荒れ果て踏みにじられていた。


「何かあったな」


リベルタが冷静に呟き、小屋の中を用心深く見渡した。


「誰もいない、と。中に入って大丈夫だぞ」


リベルタの言葉に頷き、アリシヤはイリオスとともに部屋に入る。

壊れたベッド、倒れた棚。

イリオスが目を見開いている。


「デイリアに何があったの?」

「分かりません」


アリシヤは硬い声で答えた。

テーブルの上に置かれているものが目に入る。

封を閉じた入れられた手紙が二通と、走り書きのメモ。

メモには美しい字でこう書いてあった。


『リベルタくんへ。デイリアの身柄は預かっています。取引をしましょう?内容は貴女もわかっていると思うわ。場所は、この森の南西部にある荒野。時間は正午。じゃあ、また、あとでね。エーヌの長』

「エーヌ…!」


アリシヤは思わず声を上げる。


「エーヌ?」


寄ってきたリベルタにメモを見せる。

リベルタの眉間にしわが寄った。


「デイリアがエーヌの手に落ちたか。困ったな」

「…なぜ、エーヌの民がデイリアさんを人質に?」


よくわからない。

デイリアは魔王軍だ。国と敵対している。

身元を引き換えに何かを要求するなんてことは出来なさそうだ。


「デイリアって優れた兵だからなぁ。デイリアがエーヌに取り込まれるのが怖い。加えて、デイリアは魔王の情報を持っている。国としては捕まえたいところだろう」

「なるほど」

「あと…嫌な可能性が一つ思い浮かぶ」


そういって、リベルタはアリシヤの手からメモを抜き取った。

そしてそれをまじまじと見つめる。


「面倒な人が来たもんだ…」


リベルタは苦い顔を浮かべたが、背筋を正し、アリシヤ、タリスを見渡す。


「デイリアがエーヌの民に攫われた。我々は今から彼の奪還に向かう。アリシヤ、タリス。行けるな」

「はい」


アリシヤ、タリスは声をそろえて返事をする。


「ロセさんは、街に残って記録師様をお守りしてほしい」

「分かりました」


ロセは恭しく礼をした。


「一度街に戻って、立て直そう。ロセさん、教会に報告を」

「はい」


デイリアの小屋から去る。


今からエーヌの民との対面だ。

アリシヤの心臓は強く鼓動を打つ。

ルーチェを殺したエーヌの民。


冷静になれ。

アリシヤは自身に言い聞かせる。


小屋から出て振り返ると、イリオスがまだ中に残っている。


「イリオスさん?」

「今行くよ」


イリオスが足を引きずりながらも、こちらに駆けてくる。

その手には、先ほど机の上に置かれていた手紙が握られていた。

そのうちの一通をイリオスはアリシヤに渡す。


「これ、アリシヤ宛だよ」

「え」


アリシヤは手渡された手紙を見て息を呑む。

エルバの街でもらった宝箱から出てきた黒いノート。

それと同じ文字だ。


「この文字って…」

「コキノの文字だよ?アリシヤ読めないの?」


イリオスに言われてアリシヤは頷く。


「仕方ないから後でボクが読んであげるよ。ボク、デイリアに教えてもらってコキノの文字読めるからね」

「ぜひ、お願いします」


アリシヤはイリオスに頭を下げ、手紙を懐にしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る