第六章 勇者の盾

第38話 スクード

アリシヤの誕生日パーティ。

盛り上がってすっかり深夜になってしまった。


アリシヤは、二階から毛布を持ってきて、酔いつぶれてしまったタリス、ロセ、セレーノにそれを掛ける。


「ありがとう、アリシヤさん」


リベルタが優しく微笑む。

先ほどからかなり飲んでいるというのに、全く酔う気配のないリベルタ。


カウンター席で二人は隣り合って話す。


「お酒、強いんですね」

「アリシヤさんこそ。酒飲むのは初めてか?」

「はい」

「初めてでそれだけ飲めたら上出来だ」


それからしばらく、たわいない話をしていた。

城の設備の話や、アウトリタの話、かつての剣聖の伝説。

だが、リベルタがふっと何かを思い出したようだ。


「そうだ。アリシヤさん。アリシヤさんに言っておかないといけないことがあるんだ」

「なんですか」

「酒の席でいうことでもないんだが」


アリシヤはリベルタの言葉に身構え、ごくりと息を呑む。


「実はな、最近、赤い髪の少女を探している人物がいるらしい」

「それって、私の事ですか?」

「ああ。向こうはアリシヤさんの名前も知っているようだ」


驚くアリシヤであったが、リベルタによると、エルバの村を救った英雄としてアリシヤの名はそれなりに噂になっているらしい。


「だから、今後、気を付けるように」

「わかりました」


アリシヤは深く頷く。


噂になってしまってる以上、これまでよりもはるかにアリシヤを狙う輩は増えるのかもしれない。

そう思うとぞっとする。


「その人物って、どんな人なんですか?」


アリシヤは尋ねる。

すると、リベルタの表情がかげった。

珍しいことだ。


リベルタは口を開く。


「それが、そいつ。スクードを名乗っているらしいんだ」

「スクードって…」

「そう。勇者の護衛で、俺の大切な相棒だ」


だが、スクードは―


アリシヤは首をかしげる。


「でも、スクード様は、魔王の城で」

「そうだ。死んでる。だけど、俺はその死期を見たわけじゃない」


おそらくは、その人物はスクードを名乗る誰かだろう。

リベルタはそう付け加える。


「だけど…だけどな」

「リベルタ様?」


リベルタがふっと顔を上げて照れ臭そうに笑う。


「なんだか、期待してしまって」

「え」

「もし、本当にスクードだったら、すごく会いたいんだ」


素直な気持ちなのだろう。

表情からそれがわかる。


はにかんだような笑顔に嬉しそうな声。


アリシヤは微笑む。


「私を目指してきているんだったら、会えるかもしれませんね」

「ああ。そうだな」


リベルタはグラスを持ち、酒を煽る。


「もし、今の俺にあったら、アイツはなんていうかなぁ」

「褒めてくれるんじゃないですか?」

「それはないかな。きっと昔みたく口汚く罵ってくるだろうよ」


***


「クズ共が」


王都から離れたデセルトの町。

町はずれの森の中、複数人の山賊を薙ぎ払ったスクードはそう吐き捨てた。


かぶっていたフードを下ろす。


今日はここで野宿をしようと思っていたのだが、あたりに山賊どもの血が散布しており気分が悪い。


スクードは少し離れた場所に移動し、火を起こす。


あたりは静かだ。

火の音。虫の声。川のせせらぎ。

この静けさ。故郷のことを思い出す。


スクードはゆっくりと息を吐き、目を閉じた。

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