第19話 ピノの話

ピノがぽつりぽつりと話し始める。


ピノが生まれて物心ついたころから、エーヌはこの村にいた。

エーヌの民を名乗る男たちは、時折、村に現れ、食べ物や金品を奪っていく。

少しでも抵抗しようものなら、男たちは村人に暴力をふるった。


そして言った。


俺たちはいつでもこんな村を燃やせるんだ、と。

その脅し文句が怖くて村人たちは従っているようだった。


そういうことなら、話も聞かずに扉を閉めた村長の態度も納得がいく。

戦わないのか、とピノはペルラに尋ねたがペルラは首を横に振るばかりだったという。


そこでピノら村の子供たちはどうしたらいいか相談しあった。


「でね、勇者様に助けてもらおうとしたの」

「え」

「でも」


ピノがしゅんと頭を下げる。


子供たちは村から出ることはできない。

まず王都がどこにあるのかも知らない。

そこで月に一回程度この村にやってくる行商人に手紙を渡すことにした。


アリシヤは納得する。

リベルタの持っていた『エーヌが出た』。

あの手紙はピノたちが出したものだったのだ。


だが、ピノから出た言葉は予想に反していた。


「笑われたの。勇者様はいそがしいから、そんな話きいてくれないって」

「え、でも、手紙は—」

「受け取ってもらえなかった」


ピノのはっきりした答えにアリシヤは唖然とする。

では、あの手紙は何だったのか。


「だから、勇者様じゃなくておねえちゃんに話したの…アクマは宝物を差し出したら子供の願いでもかなえてくれると思ったから…」


手紙のことは気になる。だが、今は目の前のピノだ。

アリシヤは気持ちを切り替える。



「事情はわかりました。今の話を勇者様話しましょう」

「でも…勇者様は忙しいから子供の言うことなんて」

「いえ、あの人なら聞いてくれるでしょう。大丈夫。話してみてください」


そういうと、ピノは少し表情を明るくし頷いた。

だが、その顔はすぐに曇る。


「でも、エーヌの奴らに聞かれたら村が燃やされちゃう」

「なら、村の外で聞いてもらいましょう」

「でも、子供は村の外には-」



アリシヤの耳が音を拾う。

しっ、とアリシヤは人差し指を前にやる。

静かになった地下室に足音が響く。誰かがこの地下に潜ってきている。

アリシヤは、剣に手をかけピノを自分の背後に回す。


降りてきたのは男だった。

さっき村の前であたりをうかがっていた男だ。

男の手には短いナイフが握られている。


「大人しくしろ!」


男があげた怒号に、ピノがひっと声を上げる。

アリシヤはピノをかばい一歩前に出る。


「何用ですか?」


尋ねるとともにアリシヤは剣を抜く。男が怯む。

この男、戦闘慣れしていない。

直観的にアリシヤは察した。

ならば先手必勝。


アリシヤは素早く踏み込み、階段下にいる男の懐に入る。

男のナイフを跳ね上げ、そのまま剣の柄で男のみぞおちに一撃を喰らわす。


「ぐぁ…っ」


男が地面に伏す。横にとんだナイフをアリシヤは回収する。

息をついてのもつかの間、複数の足音が近づいてきているのに気が付く。


「ピノさん、後ろに」

「う、うん」


ピノをかばい構えたアリシヤ。

その目が見開かれる。

長いひげの初老の男性。村長だ。


「赤い人。これはどういうことか説明してもらおうか」


目の前には倒れた男。アリシヤの手には剣とナイフ。

村長の後ろには武器を持った男達。


「黙ってついてきなさい。弁解はそこで聞こう」

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