第三章 山賊の村
第14話 城仕え、初日
ハイネックのシャツに、シンプルなズボン。
リベルタに言われた通り動きやすい服装だ。
腰には護身用の剣。
肩から掛けたかばんにはその他もろもろの必要なものを入れた。
忘れ物はないはずだ。
「アリシヤちゃん、そんな緊張しなくていいよ」
タリスの言葉にアリシヤは頷くがその表情は硬い。
なんせ、今日は城仕え初めての日だからだ。
アリシヤはリベルタからの申し出を受け、セレーノと相談し、城仕えを決めた。
玄関に立つ、アリシヤとタリスを見送りにセレーノが台所から出てくる。
「アリシヤちゃん、吸ってー吐いてー」
「え、あ、はい」
アリシヤは言われたとおりに深呼吸する。セレーノがにこりと笑う。
「そう、いい子。大丈夫だよ」
そういえば、タリスにもこうやって深呼吸を促されたことがあった。
この姉弟のおまじないのようなものかもしれない。
幾分か肩の力も抜けたアリシヤの顔には自然と微笑みが浮かぶ。
「ありがとうございます」
「うん、それじゃあ行ってらっしゃい」
***
「すごい」
城の正面。大きな跳ね橋の前でアリシヤは素直な感想を漏らした。
家から徒歩一五分。
大きな城壁に囲まれた城。ここが王都の中心、そしてこの国の中心地である。
青と白を基調にした荘厳な建物が、石の壁に囲まれている。
出入口は一つ。
大きな跳ね橋の掛った、この門だけである。
門には兵が一人いる。
「おはよう」
タリスが気安く声をかける。知り合いなのだろう。
だが、相手はこちらをうかがっている。
「タリスさん、その隣の人は…」
気まずい。
アリシヤは思わずフードに手を伸ばしかけたが、その手を止める。
リベルタに正式に雇われて城に入るのだ。
堂々としなければならない。
「今日から、勇者様に仕えさせていただくアリシヤと言います。よろしくお願いします」
アリシヤは深々と頭を下げる。
すると、その背をどんっと叩かれる。
「顔上げろ、アリシヤ!よろしくな!」
予想外の反応に驚いて顔を上げると彼はニコニコと笑っている。
「ああ、俺、門兵のラーゴってんだ。この前の祭り、見てたぜ!いい腕前だったからどこの子か気になってたんだが、そっか、勇者様付の子かぁ!」
あっけらかんとしたラーゴの態度にアリシヤはきょとんとしてしまう。
てっきり、赤髪から警戒されてるものだとばかり思っていた。
「どうした?鳩が豆鉄砲喰らったような顔して」
「いえ。この見た目でこういう風に話しかけていただくことは珍しいので」
そういうとラーゴは納得したような顔をする。
「なるほどなぁ。まあ、俺なんかそんな気にしないほうだが、教会派の奴らは気にするかもな」
「教会派?」
アリシヤが尋ねると後ろからタリスが答える。
「そう。この城には二つの派閥が存在している。勇者様の上司であるアウトリタ様に付く王族派、それから教会の一番お偉いさんヴィータ様につく教会派」
それに続いてラーゴが言う。
「そうそう。教会派は勇者伝説を強く擁護するから、赤の見た目のあんたは目の敵にされるかもしれない」
「なるほど」
頷いたアリシヤの肩に手がかかる。
驚いて見上げると、タリスがにっこりとほほ笑む。
「大丈夫、僕が守るからね」
キラキラオーラを浴びながらアリシヤは目を細める。
と、ラーゴが眉をしかめてるのが目に入る。
「タリスさん、その子、まだ子供じゃないですか。犯罪に走るのはどうかと」
「アリシヤちゃんは立派なレディだよ。大丈夫」
「アリシヤー、この人、すごい女性遍歴だから気を付けなー。なんかあったら頼っていいぞー」
ありがとうございます、とラーゴに頭を下げる。
タリスが不平を漏らしてはいるものの二人で門を後にする。
門をくぐると、左右に大きな塔が現れる。
この塔は見張りのための塔だ。
その先には大きな庭が広がっている。
そして、見えてくるのは大きな三つの建造物。
青と白を基調とした立派な建物だ。
長方形の建物が東西に二つ。
その二つの建物の間の北側に建物が一つ。
三つの建物を合わせると「凹」の形を百八十度回転させたような形だ。
前方に広がった美しい庭に目を奪われていると、見慣れた白髪が姿を現す。
「おはようございます、勇者様」
「おはよう、タリス、アリシヤさん」
タリスもリベルタに頭を下げる。
「さて、じゃあ行こうか」
アリシヤは頷き、後に続いた。
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