第10話 合流
「アリシヤちゃん、砂糖菓子とかどう?」
「タリスさん、もう持ちきれませんから!」
アリシヤの両手はもはや露店で売っている食べ物で埋まっている。
タリスと祭りを回り始めて早1時間、タリスはアリシヤにいろいろなものを買い与えてくれる。
「あはは、じゃあちょっとそこのベンチで食べよっか」
「はい」
二人ベンチに並んで買った食べ物を食べる。
アリシヤはフルーツをふんだんに使ったジュースを飲み、タリスはパンに肉を挟んだサンドイッチを食べている。
「どう、初めてのお祭りは?」
「楽しいです」
アリシヤは迷いなく答える。
それに、とアリシヤは首の後ろに触れながら言う。
「フードなしでこんな人ごみの中を行くのは初めてなので、とても新鮮です」
「そっか。それは良かった」
人々はアリシヤを見ると振り返ったり、怪訝な顔をしたりした。
それでも、タリスがいちいち「気にしない」と声をかけてくれた。頼もしかった。
だが、アリシヤの心に一つ引っかかっていることがある。
「タリスさん、素朴な質問なんですけど」
「なんだい?」
「お祭りって国のモノじゃないですか。国の騎士であるタリスさんがどうしてお休みなんですか?」
城内のことに関して知識の乏しいアリシヤであったが、騎士といえば重要な人物の護衛、もしくは祭りの見回りなどをしていそうなものだが。
「ああ、俺はね、国というより勇者様付の騎士なんだ」
「勇者様の?」
「そう。俺は国に雇われてるわけじゃない。勇者様に雇われてるから」
タリスの話によると、騎士には女王フィアに仕えるもの、それから大臣などの個人に仕えるものと二種類の雇用形態があるという。
「要するに前者は国の役人、後者は要人の使用人ってところかな」
「ふむふむ」
「俺は後者の方。勇者様の側近として働かしてもらってる。で、なんで休みかっていうと、勇者様は教会で祈りをささげてるからだ」
「祈りを?」
タリスは頷く。
消えてしまったレジーナは、リベルタが救い出した。その後二人は結ばれるはずだった。
要するに許嫁のようなものだったのだ。だが、彼女は消えた。
彼女のことを悼むため、リベルタは一日教会で祈りをささげている。
「と、されている」
タリスは苦笑してそう締めくくる。
「されている、というと?」
「アリシヤちゃん。前見て」
前を見る。楽しそうな人々。特段変わったところはない。
首をかしげる。タリスが指をさす。
「右手、露店のおじさんと楽しそうに話してるフードの男」
「あ」
発見してしまった。フードからちらりと覗く白い髪。
周りの人が彼のことをちらちらと振り返っている。リベルタだ。
「え、どうして?」
「それは直接聞きに行こうか」
二人は立ち上がり、リベルタの方へ向かう。
それに気づいたのかたまたまなのか、リベルタがはっと顔を上げ、こちらを確認すると、左右を見渡す。
どちらも人が多くにぎわっている。
逃げ道がないと悟ったのか、おとなしくジッとしている。
「勇者様」
「はぁい…」
タリスの詰問のような呼びかけにリベルタはしょぼくれる。
この人本当に三十歳を過ぎているのか。
それにしてもリベルタは目立つ。
フードをかぶっていてもその白い髪と褐色の肌は見えるし、何より背が高い。
人ごみを避けるように三人は祭りから少し外れた路地へ向かう。
「また公務サボってきたんですか?」
タリスの静かな怒気に、リベルタは必死に首を横に振る。
「違うって、ちゃんと許可もらってきてるんだ」
「今日は一日教会なんじゃないんですか?」
「まあ、アウトリタにはそう言ってある…」
アウトリタ。
確かフィア王女の側近であり、今この国で政治を動かしている人物だ。
そして、何より勇者・リベルタの育ての親でもある。
リベルタは顔を上げる。
「でもな、クレデンテ神父は許してくれた!だからすべて良し!」
「いいのか!?」
思わず敬語が崩れるタリス。
国のトップの言を無視するなんて勇者であるリベルタくらいにしかできないだろう。
それに、アウトリタという人物。ずいぶん恐ろしいという噂を聞く。
「それに、俺は、レジーナ姫は生きてると思ってる。祈りなんて見当違いだろ?」
「まあ…それはそうかもしれませんね」
タリスもそこは賛同する。
「あの人だったら、たくましく生きてるだろうよ。だから、俺はもう一人の方に祈りをささげたい」
「もう一人の方?」
タリスも知らないようだ。黙っていたアリシヤも首をかしげる。
「そうだな、たまにはにぎやかなのもいいか。…日が暮れたら行くからついてきてくれるか?」
リベルタの言葉に、二人は顔を見合わせきょとんとした後、首を縦に振った。
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