第8話 夢をみる
その週は、なんだか心がふわふわとしていた。
金曜日の夜。
「おやすみなさい」
タリスとセレーノに挨拶をして自室に向かうアリシヤ。
この一か月で、簡素ながらも居心地のいい空間をタリスとセレーノは整えてくれた。
ベッドと物書きのできる机、椅子。
カーテンのつけられた窓からは柔らかい月明かりが差し込んでくる。
アリシヤはベッドに転がる。
王都に来てひと月。
エーヌの民についての噂はいろいろ聞いた。
残虐非道だとか、リーダーは女だとか。
だけど、それ以上のことは何も分からない。
どうして、アリシヤが狙われたのか。
どうして、ルーチェが殺されたのか。
そんなことはもちろん。
なのに、自分は—
アリシヤは目元を覆う。
祭りの話を聞いてから気分が浮き立っていた。
楽しみだと思ってしまった。後ろめたさを感じる。
一人部屋の中で深く息を吐いた。
目を閉じると、いつか話したルーチェとの会話がよみがえる。
町から町へ移動している最中、盗賊に襲われた。
それから逃れ野宿している最中の会話だった。
盗賊の殺意に触れ、恐ろしさに泣きじゃくるアリシヤをあやしながらルーチェは言った。
「もし、私が死んだら。アリシヤ、お前は楽しんで生きろよ」
「そんなのできないよ」
幼いアリシヤは泣きながらそう答える。
「できなくてもするんだ」
「どうして」
「お前が私に囚われて苦しむのが嫌なだけ。私のわがままを聞いてくれるか?」
ルーチェが寂し気に微笑んだ。
アリシヤはその時、自分がどう答えたか覚えていない。
ああ、でも今なら答えるだろう。
「わかった。私、頑張るよ」
泣きながらでも無理にでも笑顔を作って。
ルーチェが何の心配もなく安らかに眠れるように。
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