第5話 王都、到着。

それから数時間後。


「お待たせ、ここが王都だ」


リベルタが船を降りて、先を行く。

タリスに促されアリシヤは船を降り、そして目の前にそびえたった大きな門をくぐる。


「これが、王都…」


アリシヤは思わず零した。


街を囲うように築かれた壁。その堅牢なイメージから一転。

中に入ると華やかににぎわっていた。

街道の左右には露店が並び、食べ物や、小物を売っている。

店を構えているものも多いらしい。

露店が途切れると、酒場の看板や、飲食店の看板、武具や、服飾の店まである。


混雑とまではいかないが、人も多くいる。

セストの町よりはるかに多い。


そこで、アリシヤは気づき、素早くフードを被る。

街に出る時は必ずこうしているのだ。

だが、そのフードがさっと外される。

振り向くとタリスが首を横に振る。


「そんなに可愛い顔をしてるのにフードで隠すなんてもったいない」

「赤い髪に赤い目ですよ?」

「それがどうした。君は何も悪いことをしていないのに」


アリシヤは目を見張った。

隠さなければならないものは悪だ。

どこかでそう思っていた。

もちろんルーチェは、赤い髪と瞳を綺麗だと言ってくれていた。

だが、多数の人間の敵意や侮蔑にさらされて自信も持てなくなっていた。


アリシヤは、おずおずと顔を上げる。


周りの人の視線が痛い。いつもの目だ。

タリスはそう言ってくれてもやはり、普通の人から見れば異状で恐ろしいものなのだろう。


「やっぱり、フードかぶります」

「大丈夫」


次に、そう言ったのはリベルタだ。


「今から俺の本気を出す」

「へ?」


リベルタは、軽い足取りで前に出ると一つ咳払いをして大きな声でいう。


「みんなー、この子、新しくできた仲間のアリシヤだー!よろしくなー」


リベルタが言うと、周囲の人間の表情が変わった。

侮蔑や恐怖とは違う好奇心の目。


「ちょっとあんた」


声に振り返ると、露店の果実売りの女性がアリシヤに話しかけているようだった。


「勇者様の仲間なんだろ。これ持っていきな」

「あ、ありがとうございます」

「ありがとうな、おばちゃん!」


リベルタがアリシヤの後ろから顔を出し、礼を言う。

女性はグッと親指を立てる。

もともと親交があるみたいだ。


それからも、ちょくちょくと露天商からいろんなものをもらった。

市場を抜けるころにはアリシヤの両手はいろいろな貰い物で埋まってしまっていた。


「す、すごい」

「どうだ、見たか。勇者の力!」


そういってリベルタは快活に笑う。タリスは苦い顔をしている。


「この人、よく仕事さぼって町ぶらぶらするから、町の人と仲がいいんだよ」

「町の人と仲良くなるのも勇者の仕事だと思ってる」

「そういってさぼろうとしていますね」


タリスは、長いため息をついた。

さて、と彼は顔を前に向ける。


「お疲れ様アリシヤちゃん。ここが目的の場所だ」

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