九 非日常ナ日常(終)
「はぁー……」
「なーに呆けてんだ」
「あ、椿さん」
こんなところ──図書館の読書スペースで会うなんて珍しい。
俺と同じで今日はオフなのかな。
「何か調べものですか?」
「いや、借りていた本を返しに来ただけだ。そういうお前はどうなんだ?」
「適度に読書しつつだらけてる感じですかね」
「それくらいなら家でも出来るだろ」
「うちの近所、今の時間帯だと工事やっててメチャクチャ煩いんですよ……」
「あー……」
納得してもらったところで今ふと思い出した疑問をぶつけてみよう。
「そういえば椿さん、怪異に憑かれた人間ってまともに死ねるんですかね」
「…………は?」
「えっ何ですかそのリアクション」
「いやだってお前はもう──」
「──おっと、そこから先を言わせるワケにはいかねぇなぁ」
「っ、お前は……」
「よう死神、面と向かって話すのはこれが初めてだったか?」
「……そうなるな」
「ケヒヒッ、そう怖い顔すんなって。もう少しだけ喋ったらすぐに引っ込むからよ」
「何を企んで……」
「勘違いしているようだから言わせてもらうが、相棒はまだお前らの世話になる状態じゃねぇよ」
「は?何を……」
「ん、そろそろ時間切れだな。帳尻はそっちでうまいこと合わせてくれよ?」
「おい待──」
「ん……んん?」
何だろう、酷く頭がぼんやりしている気がする。
「えーと……椿さん、俺もしかして気を失ってました?」
「あ、ああ」
「うわぁ、久しぶりにやらかしたかぁ……」
しかも人前でなんていつ以来だ。
「……病気なら診てもらった方が良いんじゃないか?」
「大丈夫ですよ、大方寝不足が原因なんで」
「そ、そうか」
「……ところで何の話をしてましたっけ?」
椿さんに何か聞きたかったはずなのに全く思い出せない。
「…………ただの世間話だ」
「うーん、そうだったような違うような……」
「すぐに思い出せないってことは大した話じゃなかったってことだろ」
「それもそうですかねぇ……」
何か引っかかるけど急ぎの用じゃなさそうだからまた今度で良いか。
「──なーんてことがあった翌日にこれってどうなんですかね?」
「まぁお互いやってる仕事の内容が内容だからな」
「結局そういうことなんですかねぇ」
だとしてもこれが日常茶飯事であることに溜め息を吐きたくはなる。
「そういや照島はどうした?」
「今回は享伍さんと組んでて、そろそろ来る頃だとは思うんですけど……」
「遅くて悪かったな」
この不機嫌な声は、と思って振り返ると案の定不機嫌な顔をした照島さんと少し疲れた顔をした享伍さんが並んで立っていた。
「どうしたんだよ東雲、肩慣らしだけでへばったのか?」
「……お前もこいつのお守りをしてみれば分かる」
「そういうの間に合ってるんだけどなぁこっち」
「お前ら、人のことを何だと……」
「あーはいはい、駄弁るのはそれぐらいにして行きますよー」
今日も今日とて東奔西走、お巡りさんは事件解決に向けて大忙しなのであった。
鏡怪談 陸:鏡国ノ話 等星シリス @nadohosi
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