五 常世
その前身である
では彼我見国が作られる前はこの土地がどんな場所だったかを端的に説明すると椿さんの言うとおり死後の世界、常世或いは彼岸と呼ぶのが適切になる。
「ちなみに昔はここら一帯が無縁塚も同然の状態で、軽く掘り返すだけでも人骨がゴロゴロ出てきたそうで」
「っ……」
「あ、今は大丈夫ですよ。見つかった骨はちゃんとしたお寺で弔ってるみたいですから」
「それってもしかして
「大正解です後呂江さん。──まぁ要するに元は常世だったから怪奇現象がぽこぽこ起きるワケでして」
「何でそんな問題しかない土地を開拓したんだ」
「理由は至ってシンプル、人が住める土地の不足ですよ。現世と同じ、生きた人間が健全に暮らせる環境へと作り替えられた元常世は彼我見市以外にもちょこちょこあるみたいですしね」
近いところだと
「ふと思ったんだけど、暗条くんと照島くんがこの間行ってきた四鏡村で行われていた儀式……鏡送りはあの村周辺が常世に戻ってしまうのを防ぐために行われていたのかしらね」
「そうでもなきゃ生贄が必要な儀式なんてやる必要が無いですからね」
「……そこまでして人が住める環境を維持する意味はあるのか?」
「ある日突然彼我見市全体が常世に戻って住民全員が幽霊や怪異になるだけならまだしも、その影響が市外にも及ぶ可能性があるから維持しなきゃいけないってのが実情ですかねぇ」
「この街はちょっとしたことで彼岸に戻るから余計に、だな。お陰で俺の仕事が増えるのなんの」
「妙な花を駆除するだけじゃないのか」
「照島お前……俺を清掃業者か何かと勘違いしてないか?」
「まぁ椿さんがどういう仕事してるか説明するのって凄く難しいですしね」
本音を言えば俺も全部は把握できてないし。
「っといけね、そろそろ戻らないとまずいな。詳しい話はまた今度、だな」
「ですねぇ、お疲れ様でーす」
聞きたいことはまだまだ沢山あるけどそれは次の楽しみにしておこう。
「こっちも異常なしっと、後は……おっ」
「──あ、
「お、に、い、さ、ん、な?」
「ぎぶ、ぎぶぎぶぎぶ」
そりゃまぁ血縁関係から見れば俺は叔父なワケだけど、せめて三十を越えるまではそう呼ばないで欲しい心理があってだな。
「えっと……パトロール中ですか?」
「当たりー。学生諸君は……あれ、下校時刻にしては大分早くないか?」
世間的には平日の正午前、こいつらの性格的にサボりだとは──
「今日は終業式だから皆早帰りなんだよ……」
「んで俺らは今から昼飯食べに行くところっす」
「ほほう、そういうことならお兄さんが奢ってしんぜよう」
「マジっすか!」
「但しラーメン屋かファミレスのどちらかに限る」
「……どっちにしろ暗条さんの格好は目立つと思うんですけど」
「その心配はご無用だよ少年、ちゃあんと大丈夫な店をチョイスするからな」
ってかそもそも通報される側じゃなくて受ける側なんだけどなぁ、俺。
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