二 四鏡村跡地

特務零課とくむれいか、それは怪奇現象が頻発する街の警察署に設立されている異色の組織。

事件が起きたらその現場に向かい、大抵の場合事件を起こした犯人である怪異を撃破する形で解決させる。

基本的には暇の多い閑職であるはずなのだが、彼我見市の特務零課は毎日といっても差し支えのないレベルで忙しい。

子どもの悪戯と大差ないポルターガイストを相手取ることもあれば何十人もの犠牲者を出した凶悪な怪異に立ち向かわなければならなかったりと振れ幅が激しく、色々な意味で気が休まらない日々を特務零課の刑事たちは送っている。


「森を抜けたらそこは湖と廃村だった」

「着いて早々ふざけたことを言うな」

今回俺と照島さんが調査のために訪れたのはかつて四鏡村があった場所。

当然ながら無人、幽霊すら見かけない。

「……どの家も酷く傷んでいるな」

「住人がいなくなってから長い時間が経ってる証拠ですね、比較的無事なのは……あの大きなお屋敷ですかね」

「さっさと調べて帰るぞ」

「大丈夫ですよ照島さん、ここはもう解決済みの場所なんですから」

どこの誰かは知らないけれど楽をさせてくれたことに感謝しておこう。


「え、これマジで……?照島さん!」

「今度は何だ!常世の闇がどうたらという話の続きか?それとも──」

「良いからこれ読んでくださいこれ!」

「…………近すぎて読めん」

「あっすいません離れます」

数歩後ろに下がり、照島さんが読みやすい位置に本を持ち直す。

「で、どれを読めって?」

「これですこれ」

「……鏡職人、吾妻匡壱あづまきょういち……」

「そうそこ!」

「こいつがどうかしたのか?」

「どうもこうも、享伍きょうごさんのご先祖様ですよきっと!」

「……いや、だから何なんだ?」

「この村で行われていた儀式について享伍さんからも話を聞く必要が出来たってことですよ」

「あいつの先祖が関わっていたのはこれで何度目だ……?」

「寧ろ関わってない案件の方が稀なんじゃないですかね」

面白そうだから今度統計記録を取ってみよう。

「──ところで暗条、そろそろ切り上げてもらわんと俺はお前の首根っこを掴んで引きずることになるんだが?」

「アッハイ帰りましょうそうしましょう」

「全くお前はいつもいつも……」

「いやぁ一度始めるとつい夢中になっちゃって……」

「怪異退治と同じくらいの早さで調べものも片付けてくれればお前のお守りなんてする必要はないんだがな」

「いや無茶言わないでくださいよ。怪異退治をさっくり終わらせるために綿密な情報収集を行う必要がですね」

「お前の場合その綿密な情報収集とやらが長すぎるんだ」

「返す言葉もございません」

これに関しては照島さんが全面的に正しい。

我ながらもっと効率よく出来ないものかと思いはするものの知的好奇心に負けてしまい、照島さんのお咎めがあってようやくブレーキをかけられるようになっているのが現状なワケで。

何ともはや、お恥ずかしい限りだ。

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