第5話 外見と中身どっちが大切?
長い長いらせん階段を大急ぎで降りていく。
早く彼女のもとへ行かなくてはと焦るが、思うように足が動かない。
途中で案の定階段を踏み外して下へ下へと落ちていきながら、ああ、また彼女とは結ばれないのだと絶望した。
いや、絶望はしていない。チャンスはいくらでもある。
「アルバート、しっかりして。ロアーナ、アルバートは大丈夫なのか?」
「大丈夫です。少し頭を打ったようですが心臓も動いていますし、息もしています。城の他の人にバレないようにアルバート様の部屋に担ぎ込んでおきましょう。」
部屋のベットに横たえるとアルバートは眠っているようで、規則正しい呼吸にほっとする。まったく心配させるカエルちゃんだ。
「冬眠しているわけじゃないだろうな。」
頬を軽くひねると、少し動いた。かわいい。
「骨も折れておりませんし、明日にでも目を覚ますでしょう。」
翌朝になってもアルバートは目を覚まさない。
こうなったら…首元を締め上げるしかないな。
ロアンと顔を見合わせてうなずく。
あと少しで締め上げるところで、アルバートは目を開けた。
「あの、ここはどこですか。私は一体どうしたのでしょう。」
「アルバート!ここは自分の部屋だよ。昨日の夜、バルコニーから落ちて気を失ったんじゃないか。」
「私はアルバートでここは私の部屋。バルコニーから落ちた。わかりました。で、あなた方は?」
「何を言ってるんだ、ソフィアとロアンだろう!」
「姫様、どうも様子がおかしいですね。」
「まったく心配をかけるカエルちゃんだ。」
「私はカエルちゃんではありません。アルバートです。そうでしょう?」
打ち所が悪かったのか、ものの言い方やたたずまいが
とにかく腹が減っては戦は出来ぬ、朝食を食べに行くことにした。
「アルバート、何をボーっとしているんだ、ヘンリーだよ。」
「ああ、初めましてヘンリー。」
「アルバート、初めましてじゃないだろう。一体どうしたんだ、ソフィア。」
「実は昨夜バルコニーから落ちて、頭を打ってから少しおかしくて。ロアンが見たところ体は何ともないのだが。」
「それは大変だったな。それでかな、アルバートは何か雰囲気が変わった気がする。落ち着いて気障なかっこつけ男のようだ。」
「そうなんだよ、というかヘンリーもいつもよりなんだか楽しそうで生き生きとしているけど、いいことでもあったのか。」
「ああ、そのことで話があるんだ。実はレイのことで。」
数日でレイチェルをレイって呼ぶほど親しくなっているなんて。
「解決方法が何かわかったのですか?」
「ああロアン、そうじゃないがレイは素晴らしいよ!実は私には毎日決めなくてはならないことが沢山ある。父上ほどじゃないがな。その時にレイに相談すると、どっちの服を着たらいいのかとか、どっちの場所の視察に行ったらいいのかとかを両手を使って二拓で聞くとおすすめのほうに
「ヘンリー様、差し出がましいようですが、大変危険です。何事も御自分でお決めにならなくては。」
「ロアンの言うとおりだ、そのうちレイに頼り切ってしまうことにならないか。」
「いや、これがレイの素晴らしいところで、大切なことで自分で判断したほうが良いことには答えてくれないのだ。それに、沢山ある選択肢から二つにまで自分で絞っているからな。」
「ほら、大切なことの判断も任せようとしているじゃないか。」
「他人に相談しても結局は自分で決めなくてはいけない大切なことでも、迷うことはある。その時レイがいてくれると、自分をわかってくれる存在がいるって思えるのだ。ソフィアだってロアンやロアーナやアルバートに相談するだろう?」
「相談しないな。自分で決める。」
「
◇◇◇◇
「ロアンは夜になると女性になるね。これはほかの人には秘密なのか?」
やはりこのアルバートは以前のアルバートではない。
「(レイチェルのことより、こっちを先に何とかしないとまずいんじゃないか。)
アルバート様と姫様と私の三人だけの秘密です。黙っていてください。」
「アルバートはいろいろ忘れているな。気がついてから妙にそわそわしているし、あちこちうろうろして。夜は早く寝たほうがいい。」
「いや、みんなと一緒がいい。」
こうして深夜にレイのいるヘンリー王子の使っていない書斎兼物置に、ヘンリーとアルバート、ロアーナ、ソフィアの四人が集まった。
白いふわふわしたものが、もう呪文なしでロアーナの体に吸い込まれる。
ロアーナの瞳が銀から紫に変わった。
「レイ、墓地巡りの日程が決まらなくて申し訳ない。アルバートが少し具合が悪くて。それはともかく、ヘンリーの選択の手伝いをしているのはどういうわけだ。」
「私はとても助かっているのだが、ソフィアが厳しくて……。」
「申し訳ありません。いろいろとご迷惑をかけているので、せめてものご恩返しと思って…。ほんの少しですが未来が予感できたのです。」
その時、今まで黙っていたアルバートが突然ロアーナを抱きしめた。
「やっと見つけた、レイチェル!どんなに探しても巡り合えないから、どうしたのかと心配したよ。もう離さないから!」
「あなたは……アル…私の運命の人?」
「約束の場所に行けなくてごめん、レイチェル。急いでいたら足を滑らせて、多分らせん階段から落ちて死んだと思う。」
「いいえ、私こそ、屋敷の塀を乗り越えようとして落ちてしまい、約束の場所には行けませんでした。その後、怪我がもとで死んだはずです。」
「どうなっているんだ、この二人は。」
アルバートとレイの会話にヘンリーはあっけにとられていた。
「紫の瞳のロアーナはこの前の人生では私の恋人レイチェルで、私はアルバートかアルフレットかそんなような名前だったと思う。」
突然説明しだしたアルバートにソフィアとヘンリーが驚く。
「アルバートの体に居候させてもらって、申し訳ない。レイチェルを探しあぐねて魂だけさまよっていたとき、元の名前に似た必死な呼びかけが聞こえたのだ。この体の本人は意識がなかったから、入り込ませてもらって、レイチェルを探そうとしたらうまい具合にここにたどり着いたんだ。この体の持ち主はよく眠るね。」
「やっぱり中身が違うと思った!探していた人が見つかったのなら、さっさとアルバートの体から出て行ってくれないか。」
「お待ちください。」
レイが入っているロアーナが懇願する。
「私たちは今まで決して結ばれませんでした。」
「知っている。それで?」
「呪いであれば真実の愛、愛する者同士の口づけによって破られます。他人の体をお借りして効果があるのかわかりませんが、やらせてください!」
「
もともとそういう方針でやってきたが、ソフィアの顔が珍しくゆがむ。
アルバートとロアーナの口づけを見なくてはいけない乙女心は複雑。
「……いいだろう。やってみるがいい。」
金髪碧眼王子を見たアルバートと同じくらい顔をゆがませてソフィアは言った。
中身は違うが、外見は紫の瞳のロアーナと
二人がゆっくりと口づけすると、厚い氷にひびが入ったような低く重い音が周りに響いた。
「うまくいったのか、ソフィア。」
「いやどうだろう、私の呪いが解けたときは何かが砕け散ったような音がしたと思うのだが……。」
アルはレイチェルを抱きしめたまま何かを決意したように顔を上げる。
「レイチェル、次の人生では上手くいくかもしれない。ダメでも何度でもチャレンジすれば僕たちがうまくいく方法を見つけられる。今回のように一歩づつでも進展すればいつか必ず結ばれる日が来るよ。」
「そうね、何度でも出会って恋に落ちるのだから……。みなさん、今までありがとうございました。あきらめずにもう一度アルと生まれ変わります。」
その言葉を最後に、ロアーナとアルバートから白いふわふわしたものが抜け出て、天井をすり抜けて消えていなくなった。
「一件落着か。」
「これから私の相談には誰が乗ってくれるんだ……。」
「自分で決断しろ、ヘンリー!それよりアルバートもロアーナも気を失ってしまったから今夜はヘンリーの部屋に泊まらせてくれないか。ああ、私もここに泊まるからヘンリーは客間で寝てくれ。」
「……私の扱いが雑すぎないか……。」
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