第4話 バルコニーはよじ登るもの
舞踏会が終わって数日、まだヘンリーの城に滞在している。
一日二日でレイチェルの問題を解決する方法が見つかるはずもなく、なんだか疲れて夜、一人の部屋で考え事をしそうになった。
いかんいかん、こういう時に考え事をしては。
その時、視界の隅に何か動くものが。えっ、窓の外に人影?
ここは城の三階のはず。レイチェルの彼の幽霊か、だったらとっ捕まえて……。
「ソフィア!」
窓の外で手を振っていたのは青い旅装束姿のソフィア。
「何でこんな所にいるの?その恰好どうしたの?これからどこかに行くなら、僕も一緒に行くから待ってて。」
ソフィアは笑いながら僕の部屋に入ってきた。
くくってあったプラチナブロンドの髪をさらりと解き流す。
「違うよ。アルバートの部屋に忍び込むのにドレスだとよじ登れないだろう?だから旅装束なだけ。」
「ドアから入ってくればいいのに。」
「それだと風情がないだろう。恋人同士は忍び合うものらしいじゃないか。ロアーナが言ってたけど。」
「えっじゃあ恋人が忍び合うっていう
僕はロアーナに抱きついた。同じくらいの背の高さなので男物の青い旅装束のソフィアと僕だと、恋人同士っていうより友情に熱い親友同士のようだけど。
秋だからソフィアの体が少し冷えていた。
「さあ、私の好きなアルバートっていう黒髪黒目のカエルちゃんを捕まえたよ。」
僕はソフィアの水色の瞳を見つめる。
「……ソフィア、とってもうれしいけど……、やっぱりこれは納得できない。女の子が忍んでくるなんてとか、男が忍んで行くべきとかじゃないんだ。ソフィアは初めにカエルだった僕を助けに来てくれて、その上夜に外からよじ登って来てくれた。ソフィアばかり頑張ってくれて僕は自分が情けないよ。僕、今からソフィアの部屋のバルコニーによじ登って行くよ。先に部屋に戻って待ってて。」
「部屋は結構高いところにあるぞ。私はロアーナに落下防止魔法をかけてもらっているが、アルバートはどうする?」
「もちろんロアーナの魔法はかけてもらうけど、よじ登るよ。」
「それでアルバート様、私に何をしろと。」
どこかの夜会に出かけていくところを捕まったロアーナはちょっと面倒くさそうに肩越しにジロリと僕を見た。
「僕もバルコニーからソフィアの部屋に忍び込みたいんだ。ロマンチックだし、ソフィアにかっこいいとこ見せたいんだ。」
「ドアから入ればいいでしょうに。」
「そんなこと言わないで落下防止魔法をかけてよ。今夜もとってもきれいだよ、ロアーナ。男性を独り占めして悪役令嬢に意地悪されても知らないよ。」
「フッ、わかりました。姫様とアルバート様のためなら喜んでと言いたいですが、私の魔法では完全に落下を防止できませんから。被害が半分程度になるだけです。ええと、姫様の部屋のバルコニーまでの手順を書いておきますからこの図で示した通りに、飛び移ってよじ登ってください。」
「わかったよ。頑張るね。」
「ご武運をお祈りします。バルコニーにたどり着くまで下で見張っていますから。」
ロアン作成の図に従って飛び移るところは飛び移って、よじ登るところはよじ登る。腕力をもっと鍛えないとだめだな。腕がプルプルする。
ソフィアが手を振っているバルコニーまであと少しというとき。
「あっ、手が滑った…。」
今までのカエルの日々が走馬灯のように…はならず、僕は真っ逆さまに落ちていった。ロアーナの魔法、これで効いているのか…。
「アルバート!!」
ソフィアの叫び声が聞こえ、僕の記憶は一旦停止した。
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